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操り人形
屋敷のあちこちに、あの女の痕跡を見つける。それと同時に、まるで幻覚のように、その姿を感じる。初めはあんなに鬱陶しいと感じていたというのに、今は。
そばにいる狼が小さく鳴く。感情などないはずなのに、まるで俺に悲しむなと叱っているように聞こえる。
俺は、知らず知らずのうちに、唇を強く噛んでいた。
あの女に出会わなければ知らずに済んだ。愛し慈しむ気持ちも、失う悲しみも。
「人間などに関わった俺が愚かだった」
愛などという不確かな言葉に惑わされず、そのまま朽ち果てさせてしまえばよかったのだ。
俺は、傍らの狼を見下ろす。窓から差し込む月の光が、狼の白い毛を、柔らかく輝かせていた。
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