操り人形

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 狼は、忠実に俺の命令をこなしていく。俺に仇をなす者の首に鋭い牙を突き立て、白く美しい毛並を血の色に染めていく。  小さく、力もなく、強がるくせに怖がりだった。そんな女が、今は、何の躊躇いもなくかつての同族の命を奪っている。  俺の僕となる事は、あの女が望んだ事だ。それなのに、血に染まるその姿に、俺の心が痛む。心など、とうになくしてしまったはずなのに。  足元に伏せる狼の頭を、俺はそっと撫でる。 「よくやった」  感情のない瞳が、俺を見上げる。体の奥が燃え上がるように熱く感じる。これは悲しみなのか、怒りなのか。何に対しての感情なのか。分からない。目頭が熱くなる。  死ねと命じればいいだけだろう。それなのに、どうしてもできない。考えるだけで、胸が張り裂けそうになる。  一刻も早く、この場を離れなければ。俺が俺でなくなってしまう。  俺は世話役に狼を綺麗にしてやるよう命じて、その場から逃げるように立ち去った。
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