満月の奇跡

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満月の奇跡

 新月が満月になる程度の、ほんの僅かな日が過ぎた。  必要以上に側にいて欲しくなかった。たが俺が姿をくらましても、狼の嗅覚ですぐに見つけられてしまう。そのしつこさに、ついあの女を思い出す。  来るな、そう命令すればいいだけだ。それを分かっていて、そうしない俺の愚かでちぐはぐな心。長く生き続け、とうの昔になくしたもの。そういうものを、あの女が蘇らせてしまった。憎くて、憎くて、どうしようもなく愛おしい。  だが、胸を抉るような痛みも少しずつ消え、抜け殻であったとしてもあの女であったものが側にいる事に、愛おしく思う気持ちだけが残っている。  俺は片膝をつき、狼を掻き抱く。暖かさも、鼓動も、香りも、あの女と同じだった。たまらず強く抱き寄せる。苦しそうに唸る狼の声。 「……愛してる。この世の何よりも」
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