ただ、会いたくて

10/10
前へ
/10ページ
次へ
 「場所がわからなかったら、中にいる学生スタッフにお声がけ下さい」  笑顔が眩しい受付のお姉さんから座席指定票を渡された。なるほど、席が決められているのか。  AF列六番、AF列六番……。 「座席の場所をお探しですか?」  座席の番号ばかりを追いかけていたから声をかけられた。その一音で身体に全身電気が走ったかのよう。この低いお腹に響く声……。  大きな革靴。真新しそうなスーツ。私の目線には広い胸。さらに視線をあげていくと、そこにはずっとずっと夢に見ていた笑顔があった。 「……会いたかった」 「俺も、会いたかったよ」  たった一年。会えなかったのは一年だけ。  だけどさみしくて、想いが募った一年。 「私、先輩に会ったら言いたいことがあったの」  あぁ、止まらない。  会えればそれだけでいいと思っていたのに。  いざ会ってしまったらこんなに想いが溢れてしまうのか。 「私……」  室内のはずなのに、柔らかな日差しを受けたような、先輩のあたたかい笑顔が私に向けられた。  一年前と変わらない、頭に乗せられた優しい手のひらの感触を、私はじんわりと噛みしめた。
/10ページ

最初のコメントを投稿しよう!

27人が本棚に入れています
本棚に追加