ただ、会いたくて

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「ふぅ~っ……」  入学式の会場の看板前で大きく息を吐いた。  今日はまだ入学式。先輩に会えるわけじゃない。  でもいよいよ学生生活が始まると思うとドキドキする。  いくら同じ大学とはいえ、知ってるのは先輩が同じ大学の学生だという事だけ。学部すら知らない。そんなんでどうやって探し出そうというのか。  そんな事なにも考えてなかった。  とにかく同じ場所にいれば、いつか、どこかで会えるんじゃないか。そう思い込んだまま一年過ごしてきたんだ。  ただ先輩に会いたくて。声が聴きたくて。  優しく笑う顔が見たくて。驚いた顔が見たくて。  どんな表情でも、どんな声でも。  ただ、あなたに会いたくて。  こんなに想っているんだから。もし、先輩に会えたら何て声をかけようか。 『お久しぶりです』『約束通り来ました』まさかの『好きです』?  いやいや、それはいくらなんでも言えないし、いきなりはマズいよね。  そんな事を考えながら受付の順番に並んだ。  周りは入学式なのにもうあちこちで友達の輪が出来ている。  チラと漏れ聞こえてくる会話からして、どうやらSNSですでに知り合っているらしい。確かにそんな話を友達から聞いてはいた。『やっておけば入学式ぼっちは回避できるよ~』って。  でも私の頭の中はどうやって先輩を探し出そうという事ばかりで、友達作りは考えていなかった。今考えてみれば、友達が多ければ学部外の友達もできたりして、先輩の情報入ってくるかもしれない。あぁ、しまったなぁ。もう遅いか。
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