六本木1

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六本木1

 色とりどりのライトが煙草の煙に溶け、怪しげな色合いに包まれた店内には幾多の言語が飛び交っている。プロのダンサーを目指し海外に飛び立つはずだった私は、皮肉にもここで英語を学んだ。  テレビインタビューなどの撮影場所として多く使われる六本木の交差点。そこを通る高速道路の高架下をくぐり東京タワーが望めるほど歩いた所に、私が躍っているトップレスバー『ロッカーズ』はある。元々は外国映画に出てくる片田舎のダイナー風だったらしいが、今ではトップレスバーに様変わりしていた。もちろん表立ってトップレスバーとは謳っていないし、女性店員が全てトップレスなわけじゃない。ウエイトレスは白いシャツの胸元を大胆に開き、ギリギリのチラリズムを演出していた。  トップレスは店のダンサーに一任されている。要はチップが多いか少ないかだ。中でもセクシーな衣装で派手な演出のあるバーレスクタイムで踊るトップレスのダンサーは、チップだけで生計を立てられるほどだ。その他のダンサーは、給料とチップを合わせても昼間に別の仕事をしている人が多かった。私もご多分に漏れずだが、その中でも底辺だった。  私は今日も不本意ながらも二の腕と太ももを露わにした衣装で、カウンターで囲まれたポール台の上でダンスを踊る。対角にあるポール台で、トップレスの子がチップをもらっているのが目に入る。二週間肌を露出せず踊っていた子だ。ダンスが初めてで、私が一から教えた子。今ではお客に視線をおくり、自分をアピールできるようになった。ダンスが楽しいと笑った彼女。そしてお金が必要なのだと俯いていた彼女が頭をよぎる。  指笛が聞こえた。視線を向ければ、以前地下アイドルの振り付けのバイトを斡旋してくれたお客だった。一回きりの決して表には名前が出ないバイト。  膝をおってチップを受け取った私は、ダンスに集中する。店にとってもお客にとってもメインステージが始まるまでの余興。でも私にとっては大好きなダンスが踊れる場所。私に残された最後の場所。
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