六本木2

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六本木2

 実家の樺澤(はなざわ)家は、地元酒店の中でも大きい方だった。周りに大人が多かったこともあって、テレビの見よう見まねで踊っていたらダンスが上手だとすぐに広まった。地元のローカルテレビの取材まで受けたりもした。町を歩けば(まい)ちゃんと声をかけられるようになり、幼い私は有名人になった気分だった。  スマホを持つようになると世界が広がった。多種多様なダンス動画に魅了されてコピーしまくった。踊ることが楽しくてしかたなかった。やがて 高校でダンス部に入って、自分の動画を発信するのが夢になった。それがバズってに行けると信じている年頃だった。  生活圏内で唯一ダンス部のある隣町の高校に入った。しかし部活初日から落胆した。ダンスが好きと言うより、ただわちゃわちゃと仲良く動画が撮りたいだけの集まりだったからだ。顧問も自主性という放置を決め込んでいて、私は練習場所確保の為だけに部活を続けた。そして専門学校に行こうと決めた。ちゃんとレッスンを受けて、コンテストに出て、プロを目指そうと。  コンテストという目標があることで、両親は渋々だったが上京を了承してくれた。最初こそ支援を受けるが、東京ならすぐに返せるようになると思っていた。  夢はすぐに現実に塗りつぶされた。スタートから気持ちも実力も違いすぎた。東京生活を始めただけで、もう夢が叶ったものと浮かれてしまった私は、経験という武器を何ひとつ持っていないにも関わらず、好きという気持ちだけで猛者犇めく世界へと門を潜ってしまったのだ。  思い通りにゆくことなど何ひとつなかった。慣れない毎日のレッスンと気疲れでクタクタになり、バイトを始めることさえ出来なかった。付いてゆくのがやっとで、必死になればなるほど私生活がすさみ、余裕のなさがダンサーとして必要な魅力を削いでいった。  みんなが人脈を作り、自分を表現する場を広げ結果を出し始めた頃でも、私はまだ悪循環から抜け出せずにいた。
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