六本木2

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 奇しくも悪循環を断ち切れたのは体が壊れたおかげだった。おかげというのは、そのままだったら心が壊れていただろうと思えたからだ。  入院の間に得られた睡眠と栄養と時間が、自分の心に静穏をもたらし、自分自身を見つめることがでした。  私は何のためにダンスを学んでいるんだろうと考えた。それはプロになるためだった。どうしてプロになりたいのかと考えた。ダンスが好きだからだ。今もダンスは好きかと考えた。楽しいかと考えた。踊りたいかと考えた。私は。答えられなかった。  専門学校を辞めダンスから離れた。とにかく普通に、人並みな生活をおくることを目指した。それからまた道を探せばいいと思った。  スパーのレジ打ちと飲食店のバイトをローテーションして家計も安定すると、ダンスオーディションという文字が目につくようになった。無自覚でも意識していたのかもしれない。また踊りたいと思える自分を待っていたんだと気付いた。そしてそれはすぐにやってきた。  勘を取り戻すために飲食店から、ダンス提供があるレストランにシフトチェンジすると、私はオーディションへの応募をはじめた。もちろん本気になり過ぎて自分が壊れないよう、受かればラッキーくらいの気持ちだった。  アピールできる経歴もなにもないのだから、ほとんど書類選考落ちの日々だった。いっても一次選考で確実に落ちた。熱を持った若い子たちを見ると冷めてしまう自分がいて、審査員の心証が悪いのは当然だったし、自己嫌悪に陥らないようプロになりたい気持ちにブレーキをかけてしまっているのだから何も変わりようがなかった。結局私は、ただ踊れる場を求めてバイト先を転々とし、深い時間帯へと身を沈めていった。
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