渋谷2

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渋谷2

 大河(だいが)と出会ったのは、十八歳になった当日のセンター街。耳が痛くなるほど風の強い日だった。 「この曲、好きなの? 俺も好き」  私が落としたイヤホンを自分の耳につけ、それを指で叩きながら軽く声をかけてきたのが大河だった。  音楽の趣味が合って、他愛のない話を重ねるうち、会う時間も増え気兼ねしない友人になっていた。そんな私の気持ちに変化があったのは、珍しく大河が夢を語った時だった。 「システム構築に資金を割けない小さな企業をバックアップする会社を作りたいんだ」  熱く語られる言葉の中に、たくさん聞き覚えのある言葉(カタカナ)は出てきたけれど、正直具体的に何をしたいのかはわからなかった。でも、応援したい。支えたい。叶うなら一緒に夢を追いかけたいと思った。それは単に、大河の熱にあてられたのか。それとも恋愛感情を抱いていたのかは、今もわからない。  どちらにしろ私の願いが誰か様に届いたのか、大河の方から同居の申し出があった。お互い学生で生活費を切り詰めるには一番有効な手段だったし、気を使わなくて楽が常套句だった。  同居をきっかけに大学を辞めると、二人で夢に向けて動き出した。大河はまず人材集めとスポンサー探しに奮闘し、その間私は塾講師で二人の生活を切り盛りした。そしてアバロンカンパニー立ち上げに漕ぎ着けると、今度は必死に営業回りに勤しむ大河を、運営を管理する事で手伝った。カンパニー立ち上げメンバーも、時には無理をしてまで頑張ってくれた。そうした内に、私はパートナーだと紹介されるようになり、そしていつしか付き合っていた。  居心地が良かった。パートナーと紹介されるのは支えている実感を得られたし、寒く狭い部屋だって愛を確かめ合う事ができた。分けあって食べたカップ麺が今でも一番のごちそうで、笑顔で夢を語り合えた。  あの頃、私達は夢を食べて暮らせていたのに……
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