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そう、おれは吉丸つむぎのことが好きだった。
一年生のときからだ。
おれ、岸湊斗はダンスに夢中だった。
幼なじみの望月葵を裏切って、サッカー部ではなく、ダンス部に入部してしまった……ということもある。
おれは、葵みたいにはなれない。
だから、サッカーから逃げたんだ。
葵に対して引け目があったし、「ダンスからも逃げたら、おれはこの先、ずっと逃げつづけるだろうな」という恐怖感もあった。
とにかくダンスに打ちこむことでしか、自分の心を守れなかったんだと思う。
学園のイケメン王子だの、ダンス王子だのとよばれ、女子にチヤホヤされたけど、おれの頭には「ダンスがうまくなること」しかなかった。
ラブレターをもらったり、告白されても、ぜんぶ断わった。
逆うらみされ、「ダンス王子は女たらし」とかふざけたウワサを流されることもあったが、べつにどうでもよかった。
ダンスの実力を、世間に認めてほしかった。
そんなとき、おれは、つむぎの存在を知った。
校庭の片すみの花壇で水やりしている女子に、なぜか目をうばわれたんだ。
園芸部の当番だろうか。
水やりしている姿に、おれはトゲトゲしている心が安らぐのを感じた。
さらには飼育委員の当番で、うさぎの世話をしているのを見たこともある。
花やうさぎの前で、つむぎは慈愛に満ちた表情をしていて、聖母マリア様みたいに思えたんだ。
それからというもの、校庭で、廊下で、全校集会のときの体育館で、つむぎを見かけるのがおれの楽しみになった。
つむぎは、いつもひとりだ。
A組にダンス部のやつがいるから、用事でA組の教室に行くことがあったが、さり気につむぎを見ると、いつもひとりで読書していた。
それでも、つむぎは平気なように見えた。
ひとりぼっちをおそれて、やたらつるみたがるやつが多い。
そんなやつより、つむぎのほうが強いし、魅力的だと思う。
おれはいつしか、つむぎにダンスを見てもらいたい……と思うようになった。
ダンス動画がバズって、テレビで紹介されたことあるが、見てもらえた保証はない。
そうだ! 学園の花壇の前でダンスして、その動画をアップしたら見てもらえるんじゃないのか?
しかし、校庭は人目が多くて集中できない。
そういえば、中庭にも花壇があると、チラッときいたことがあった。
リハーサルも兼ねて、ちょっと見ておくか。
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