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なんらかの超常現象に巻き込まれたのか、あるいは夢なのだろうか。考えたところで答えは出なかった。
どのみちずっとここにいるわけにもいかない。元気なうちに出口を探す必要がある。俺は奏音を背負い上げた。
「おじさん、おなかすいた」
「もう少しだからな」
日差しに目が眩む。子どもを背負いながら砂浜を歩き回るのは予想以上に体力を削られた。先が見えない。出口が見当たらない。全てを投げ出し、駆け出したい気持ちになる。海の家で見たビールのポスターを思い出し、喉が鳴った。
ふと顔を上げると、俺はショッピングモールの中にいた。目の前には二つの人影。大きい方は俺と同じくらいの背丈だろうか。小さい方の手を握りながら旅行代理店の前で立ち尽くし、雑誌の表紙を見つめている。
「……さん! おじさん!」
奏音の声で我に返る。人影は蜃気楼のように消え、代わりに砂浜には似つかわしくない無機質な四角い箱がそびえていた。
「上へ参ります」
聞き覚えのある声と共に扉が開く。誘われるように俺たちはエレベーターへ乗り込んだ。
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