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来訪
「面倒見てほしいの。一週間だけ!」
両手を合わせて妹の絵莉子が言った。息抜きに海外旅行へ行きたいのだという。叶えてやりたいのは山々だが、他人と暮らすのはストレスだ。ましてや五歳の甥っ子なんて、断るほかない。
「悪いけど……」
絵莉子の狡いところは、すでにソイツを連れてきていたことだ。不運にも目が合い、俺は二の句が継げなくなる。ソイツはぽかんと口を開けながら、絵莉子と俺を交互に見た。
「一週間だからな」
「ありがとうお兄ちゃん!」
絵莉子は俺の手を握った後、ソイツを抱きしめ「大好きだよ」と言った。ソイツはまっすぐ彼女を見上げ頷いた。見るに堪えない光景だ。絵莉子は名残惜しいのか何度も頬ずりをし、つむじの匂いを深く吸い込んだ。
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