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3F
運動不足のアラサーにとって全力疾走は拷問に近い。15キロの荷物を抱えているなら尚更。迫り来る腐臭に振り返ると、むき出しの骨が鼻先を掠めた。
「あっぶねえ!」
なんとか体勢を立て直し、再び走り出す。体が重い、横腹が痛い、なんなら腕も脚も全部。一人だったらとっくに諦めていただろう。なにしろ海外ドラマでしか見たことのないようなゾンビの大群が押し寄せてきているのだから。
「やばい、詰んだかも」
「おじさん、あそこ! もうちょっと!」
小脇に抱えた15キロが指をさしながら言う。俺は転がるようにそれに乗り込み、死に物狂いで『閉』ボタンを連打した。
緩慢な動作で扉が閉まり、モーター音が唸りを上げる。床にへたり込みながら目をやると、奴は呑気にあくびをしていた。思えばコイツが来てからだ。俺の平凡な日常が一変してしまったのは。
「4階、巨大迷路フロアです」
息つく間もなく、能天気な声と共に扉が開く。乾いた風が砂塵を巻き上げ、思わず目を瞑った。
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