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「美味しいわ…」
「本当ですね!」
部屋に運ばれて来た料理は一人分には量が多過ぎた。よくよく見てみると、カトラリーは二人分が用意されていた。
ふたりが驚いたのは、野菜の量と種類。
料理に添えられたローズマリーも、氷菓子に乗ったスペアミントも、フレッシュハーブだった。
「ストラミネアは農業国ですから、収穫した野菜をそのまま調理できるのでしょうね。私はこれほどの量を生で食べた経験がありません」
「パンも美味しいのよ」
ルシアナに言われて、ナナは白パンに手を伸ばす。
「本当ですね!香りもいい!やはりセクンダに届くまでの日数で、小麦も鮮度が落ちるのでしょうか。セクンダでは野菜も乾燥野菜や芋を使った煮込み料理ばかりですもの。ほんとうに素晴らしいですわ!」
感嘆の声を上げながら喜ぶナナは、ルシアナの瞳が潤んでいるのに気が付いた。
「姫様、あまりの美味しさに感激しているのですね?」
「違うの…」
ポロリポロリと涙がこぼれ落ちる。
ナナは食事の手を止め、ルシアナの涙をハンカチで受け止めた。
「家畜扱いするなっ!て…お皿をひっくり返して、料理人に土下座をさせたの」
「家畜、ですか?」
「草ばかり並べて失礼だと」
「まぁ…」
ナナは絶句して改めて料理の並んだテーブルを眺めた。確かに緑色が多い。
皿の絵柄にまで拘る自国の創意工夫を凝らした料理とは別物に見える。
「でも姫様、今は違いますでしょう?」
ルシアナは黙って頷く。
「でしたら、これからこの国の良いところを見つけて行きましょう。きっと神様は、罰ではなく気付きの機会を与えてくださったのですよ」
「気付きの機会?」
「そうです気付きの機会です。姫様がご自分のことをモンスターだったと仰った。それこそが気付きです」
「………」
「私の顔に傷を負わせて後悔なさった。懺悔の気持ちが出来たのも姫様の変化です。……でも、今の私には顔に傷などありませんから、謝ってもらっても嬉しくないのですがね」
「………」
「神様は、姫様の悔いの残る人生をやり直す機会を与えてくださったのですよ。感謝しなければ!」
ナナは、そう考えるのが自然だと主張した。
ルシアナは、ぼんやり考えながら、皿の上のルッコラを口に入れた。そのほろ苦さにまた涙をこぼした。
翌朝、ルシアナが目覚めると、枕元には新しいぬいぐるみが増えていた。灰色の犬のぬいぐるみだった。首輪の中央に小さなガラス瓶が付いていて、中には丸められた紙片が入っている。
『元気になってくださいね レズリーより』
レズリーとは、デュランの妹の名前だ。
過去にルシアナが階段から突き落とした、あの娘からのメッセージだった。ルシアナはまた大泣きした。
「神様に感謝することがまた一つ増えましたね。さあ起きて顔を洗ってください」
「でもわたし、感謝の気持ちというより、贖罪の気持ちのほうが大きいのよ」
「昨日も言いましたが、私は謝ってもらっても嬉しくないですよ?デュラン様もレズリー様も同じだと思います」
「………」
「でしたら、姫様がおふたりを幸せにして差し上げればよいのでは?過去に不幸にしたことを悔いるのなら、その人を幸せにすれば良いのです。それなら贖罪になりますよ」
どんなときでも笑顔だったあの人たちを、悪魔の顔にさせた罪。それを償うなら…
「…どうやって?」
「一緒に考えましょう」
ナナはそう言って笑った。
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