ニョロカレ

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「わかんない。一応こっちを主に探してるけど」  実は迷ってる、と話すのも理由を訊かれそうだから言わないでおく。突っ込まれたら、ポロッと口に出してしまいそうだ。律の話す声はゆっくり穏やかで、警戒心を溶かしてしまう不思議な力がある。  私は余計な詮索をされない内に話題を逸らした。 「となると、私の圧勝だね。ここのところ連戦連勝だもん。もっと難易度上げてもらわないとやり甲斐がないよ」 「マジすか。……でもなー、正直言って出尽くしちゃってんですよね。寝るより寝場所を開拓する方に時間を取られちまう」  律は膝の間に顔を埋め、うーんと呻く。 「夏場はクーラーのある部屋にいなよ。いくら日陰でも外で寝てたら熱中症になっちゃう」 「だったら尚更選択肢が狭まるじゃないっすか」 「夏場は休戦にしよっか」 「それはダメっす」  律は起き上がると背中と尻を適当に払う。クルクルと巻いた髪をワシワシと掻き混ぜ、こちらを見下ろした。相変わらずの長身。そして、横縞のカットソーを着ていてもちっとも着太りして見えない痩身。  律はひょろ長い身体を屈め私に視線を合わせる。いつもより少し近い距離に、鼓動が跳ねた。 「交代しましょう先輩」 「は?」 「今度は俺が先輩を探します」 「え、でも、私は昼寝をする必要ないんだけど?」 「当然っすよ。構内だからって女の人がそこら辺で寝そべってちゃ危険でしょ」 「私の居場所を探してたんじゃ、それこそ寝る時間が削られるんじゃないの?」 「俺の推理力を舐めないでください。10……8分で見つけてみせます」 「中途半端ぁ」 「とりあえず俺の予定表送るんで、空きコマ狙って出題してください。……先輩、梅ソーダでいいですよね」  律は話しながら自販機の前に立つと、スマホを翳す。ガタガタと音を立てて落ちてきたそれを取り出しこちらへ突き出した。  私はおずおずと受け取り、そっと律の表情を窺う。  しかし、糸目の奥を探ることは難しく、何も読み取ることはできなかった。  そして、出題者と回答者を逆転したゲームが始まった。  宣言通り律は8分以内に私を見つけ出し、他愛もないお喋りをして去る。飲み物を奢るというルールも改正され、ポイント制になった。1ポイント=100円として月毎に集計し、負けた方が差額を支払うというものだ。現金のやりとりを渋る私に、律は飄々とした口調で言いくるめた。
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