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「別に物でもいいっすよ。それは金額を見て二人で決めればいいんじゃないっすか? とりあえず、こっちの方が断然モチベが上がるんでお願いします」
四月は律の勝ちで、差額の900円は昼食二食分。初めて学食で待ち合わせた。律は思いのほか大食いで、A定食だけでは足らずにラーメンと唐揚げも注文し、すべて平らげた。
五月は奇跡的に引き分け。売店でソフトクリームを買って並んで食べた。
「律、ベロ長くない?!」
「先輩、せめて舌って言って」
「生まれつき?」
「当たり前っすね。訓練して長くする意味がわからねぇ」
「ありんこ食えそう」
「食べませんね」
「律ってどこもかしこも長いんだね」
「……先輩、セクハラっすよ」
「変な風にとるそっちが悪い!」
肩を拳で押すと、律は長い舌をクリームの側面に当てながら笑う。弧を描く目が可愛くてキュンとした。
しかし、器用にクリームを掬い取る舌がやたらと淫靡で目を逸らす。
「先輩、溶けるっすよ」
手元を見れば、コーンから溢れ出した白い液体が親指を濡らしていた。ここが自宅でひとりならば迷わず舐めとるところだが、律の前でそれをすることは憚られ、一瞬迷う。
その隙に手首を掴まれた。
律のふわもこの頭が目の前ににゅっと現れる。
ベロン。
「わっ!」
律は親指を舐め上げ、ついでにコーンの周りに溶けて溜まったクリームを長い舌でぐるりと舐め取った。
「な、なにすんの?!」
「だって溶けてたんですもん。あ、先輩人が口をつけたものは食えない感じですか? なら、俺が食います」
「食べられるし!」
咄嗟に律からソフトクリームを遠ざける。間接キスであることを意識せざるを得なかったが、平静を装って舐め続けた。
それにしても、ルール改正してからというもの確実に律と過ごす時間が増えている。しかも、やたらと距離が近い。
これは……まさか有り得る?
勝手にドギマギする私の横で、早々と食べ終わった律がペットボトルの水を飲んでいた。
私はコーンを齧りながら、どう切り出すべきかを思案する。ストレートな表現は避けて、しかし、奥に潜んだ思いは汲み取れるようなやつが望ましい。などと、身の程知らずにも難易度の高い技に挑もうとしていた。
「そういえば、先輩、就活進んでるんすか?」
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