ニョロカレ

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 ふいに問いかけられ、不自然に身体が跳ねた。ベンチに背中を預けてこちらを見る律から目を逸らし、焦りつつも答える。 「ま、まあね!」 「地元でも受けるんですか?」 「あーうん……どうかな。とりあえず夏休みには帰省するけど」 「先輩、出身N県ですよね。みかんの産地」 「そうだけど」 「地元に帰るんなら送って下さいよ、みかん」  私はガツンとハンマーで殴られたような衝撃を受け、夢から覚めた。  ……あ、こりゃ脈ナシだ。  律の中で私は地元へ帰る想定、つまり卒業後に会いたいと思うほどの存在ではないのだ。  しかし、私は失恋の哀しみなどおくびにも出さずに親指を立て、ドヤ顔を作って見せた。 「任せとけ。箱で送り付けてやる」  現金なもので、律にその気がないと分かった途端私のモチベーションはガクリと低下した。こうなると、ゲームに付き合うのもツライだけである。  かといって急に態度を変えるのも大人気ない。だって、律にはなんの落ち度もないのだから。勝手に好意を抱き、勝手に失恋した、完全なる私の一人相撲だ。  ということで、ゲームには3回に一度の割合で付き合うことにした。卒論と就活を理由にすれば、徐々にフェイドアウトしても何ら疑われることはないはずである。  私は地元の企業を調べ、いくつかの会社に宛てて訪問を希望するメールを送った。今の時点で、こっちでの就職とUターン就職での気持ちの割合は、3対7といったところである。週明けに訪問する予定の会社の手応えがイマイチだったら、完全に地元へシフトチェンジしようと考えていた。   「先輩、書留頼んでもいいっすか。家の近くに郵便局があるって言ってましたよね?」 「いいけど」  私は差し出された封書を受け取った。律からこういった頼み事をされるのは初めてのことである。 「立て替えてもらっていいですか? 領収書と引き換えに代金支払うんで」 「ポイントで支払えば? 今ちょうどそれっくらいだよ」 「ダメです」  珍しくも強めの口調で拒否され、私は戸惑う。しかし、理由を訊ねることはせずに大人しく請け負った。  そして、数日後、律は私に再びミッションを課した。 「先輩、『遊楽』っていう居酒屋知ってます?」  私は頷く。その店ならアパートの近くだ。道を挟んで五軒ほど先にある。
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