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私は恐怖に襲われつつも、そっとベランダ側に身体を移動し様子をうかがった。バックからスマホを取り出し、大家さんの連絡先を検索する。発信ボタンを押す前に再度目を凝らせば、投げ出した足が履いているシューズに見覚えがあることに気づいた。
「り、律?!」
裏返った声に反応し、足がずずずと動いた。そして、冷蔵庫の陰からひょっこりとモコモコの天パの髪が顔を出す。
「こんなとこでなにしてんの?!」
のっそりと起き上がった長身の男は、糸目を弓なりにして答えた。
「正解っすね。俺の勝ちですよ先輩」
「なに言ってんの? 私は問題なんか出してないよ、なんで私んちに来たのよ」
駆け寄る私を見下ろし、律はのほほんとした口調で返す。
「だって、先輩ってば最近遊んでくれないじゃないですか」
「そ、それは忙しくて……」
「先輩早々と卒論のテーマを決めたんでしょ、下書きも始めてるって聞きましたけど。提出は12月だから余裕ですよね」
「だ、誰からそんなことを……」
「それと、就職先は地元に絞ったって本当ですか?」
「へっ?」
誰だ、べらべらしゃべりやがったのは。
目を泳がす私の腕を律が掴んだ。そして、ずいっと顔を近づける。固まる私に向かい、薄ら笑いを浮かべたまま低い声で告げた。
「困るんすよね。俺に相談もなしに勝手なことされちゃ。先輩はこっちで就職するだろうと思ってたのに」
言葉の意味を理解できず、ただ見上げる私に、律が手を差し出す。
「先輩、鍵」
私は、言われるままに律の掌の上に鍵を乗せた。目前の律からは、有無を言わせぬ圧が漂っていた。
腕を掴んだまま部屋の鍵を開けた律は、ドアを開け、家主より先に部屋に上がり込む。
「ちょ、ちょっと待ってよ律、どういうことよ」
我に返り、背中に向かって問いかけるが、律は無言でずんずんと進む。リビングへ続くドアを開け、頭を低くしてすり抜けた。
「へえ、意外と広いっすね」
律は勝手にカーテンを開け、ガラス越しに外を眺める。
「はいはい。ここから撮ったんですね。ドンピシャっすよ。俺天才」
私は発言の意味に思い当たり、愕然とした。
「まさか……あの時送った画像から推理したの?」
「突き止め甲斐がありましたよ。まず郵便局の領収書から地区を割り出して、画像に映りこむ建物の角度を計算して当たりをつけました」
「勝手に出題させないでよ!つか、普通に訊け!」
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