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「逃げられたら困るんで」
「なによっ、掛金の差額ならちゃんと支払うわよ」
「そういう意味じゃないっすよ」
律はカーテンを閉めると、私に向き合う。そして、照れくさそうに頭を搔いた。
「俺、先輩が好きなんです。先輩もだいぶ俺のこと、いいと思ってるっすよね?」
私は面食らい、一拍おいて声を上げた。
「はあああ?!」
「俺は確信がないとこんな強引な真似はしませんよ。認めましょう先輩」
律はもう片方の腕も掴み、小さく上下に揺らす。
「こっちで就職探してください。俺は院に進むつもりなんで。遠距離とか嫌なんで」
えっ、なんかもう付き合うことになってない?
「いや、だって、言ったよね? みかん箱を送ってくれって。それって地元へ帰っても構わないってことでしょ?」
「夏休みに帰るんなら、ついでにって意味っすよ?」
「夏は露地物の温州みかんは出荷しない! ハウスみかんはあるけどうちの周りにはない!」
「へぇーそうなんすか?」
私は混乱し、頭を整理するべく目を閉じた。
地元では小学生でも知っていることだが、他でもそうだとは限らない。確かにそうだ。私が深読みし過ぎたのだ。だけど……
その直後、唇に柔らかいものが触れ、ちゅっと音を立てて離れた。
かッと目を見開き見上げる私に、律はふにゃりと笑う。
「逃がしませんよ先輩。せっかくここまで仲良くなったのに離すわけないでしょう。俺、こう見えてしつこいんすよ。これと決めたらとことん追いかける。そうしないと気が済まない性分なんっすよ」
私は激しく瞬きをした。視界の中の律の顔が、コマ送りで近付いてくる。
舌を出した律が、私の鼻先をペロンと舐めた。
「もう、唾つけちゃっていいっすか? じっくり攻めるつもりだったけど、猶予がないみたいだし? 俺もそろそろ限界だし」
上唇を舐める律の壮絶な色気に圧倒され、私は蛇に睨まれた蛙よろしく硬直する。
「可愛い先輩。緊張してるんっすか? 遊び慣れてる感を出してるけど、実はさほど経験ないでしょ? 俺にはバレバレっすよ。大丈夫、任せてください」
律が耳元に囁く。
「いっぱい舐めて気持ちよくしてあげますよ」
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