ニョロカレ

9/12

32人が本棚に入れています
本棚に追加
/12ページ
「逃げられたら困るんで」 「なによっ、掛金の差額ならちゃんと支払うわよ」 「そういう意味じゃないっすよ」  律はカーテンを閉めると、私に向き合う。そして、照れくさそうに頭を搔いた。 「俺、先輩が好きなんです。先輩もだいぶ俺のこと、いいと思ってるっすよね?」  私は面食らい、一拍おいて声を上げた。 「はあああ?!」 「俺は確信がないとこんな強引な真似はしませんよ。認めましょう先輩」  律はもう片方の腕も掴み、小さく上下に揺らす。 「こっちで就職探してください。俺は院に進むつもりなんで。遠距離とか嫌なんで」  えっ、なんかもう付き合うことになってない? 「いや、だって、言ったよね? みかん箱を送ってくれって。それって地元へ帰っても構わないってことでしょ?」 「夏休みに帰るんなら、ついでにって意味っすよ?」 「夏は露地物の温州みかんは出荷しない! ハウスみかんはあるけどうちの周りにはない!」 「へぇーそうなんすか?」  私は混乱し、頭を整理するべく目を閉じた。  地元では小学生でも知っていることだが、他でもそうだとは限らない。確かにそうだ。私が深読みし過ぎたのだ。だけど……  その直後、唇に柔らかいものが触れ、ちゅっと音を立てて離れた。  かッと目を見開き見上げる私に、律はふにゃりと笑う。 「逃がしませんよ先輩。せっかくここまで仲良くなったのに離すわけないでしょう。俺、こう見えてしつこいんすよ。これと決めたらとことん追いかける。そうしないと気が済まない性分なんっすよ」  私は激しく瞬きをした。視界の中の律の顔が、コマ送りで近付いてくる。  舌を出した律が、私の鼻先をペロンと舐めた。 「もう、唾つけちゃっていいっすか? じっくり攻めるつもりだったけど、猶予がないみたいだし? 俺もそろそろ限界だし」  上唇を舐める律の壮絶な色気に圧倒され、私は蛇に睨まれた蛙よろしく硬直する。 「可愛い先輩。緊張してるんっすか? 遊び慣れてる感を出してるけど、実はさほど経験ないでしょ? 俺にはバレバレっすよ。大丈夫、任せてください」  律が耳元に囁く。 「いっぱい舐めて気持ちよくしてあげますよ」
/12ページ

最初のコメントを投稿しよう!

32人が本棚に入れています
本棚に追加