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ね? と念を押すと、瞬きを忘れたような俊也君の双眸がたちまち赤味を帯び、じわりと涙があふれた。真一文字に結んだ唇も震えている。彼が押しつぶされそうになっていた孤独や疲労感が手に取るように伝わってきて、私まで泣きそうになってしまう。だから「どうしたの」とか「泣かないで」とは言わず、黙ってハンカチを貸してあげた。
「あなたの頑張りは決して無駄にはならないし、しちゃいけない。お天道様がちゃんと見ているからね。辛い時は我慢しないで、お父さんやお母さんに話してごらん。きっとわかってくれるはずよ」
他人の私がわかるのだから間違いない。そう信じて「じゃあね」と俊也君に別れを告げる。その場を離れても心臓はまだドキドキしていた。
少し距離をおいた商品棚の陰から祈る思いで様子を窺う。俊也君はしばらくその場にとどまっていたけれど、やがてくるりと出入り口に背を向け、迷うことなくお菓子売り場へと戻って行った。
その日の帰り道。
「う~! 寒い!」
冷たい北風にコートのポケットへ手を突っ込むと、中からクシャクシャになった短いレシートが出てきた。
『ミルクキャラメル ¥146』
今日、自分のしたことが良かったのかどうかはわからない。たぶん私服警備員としては失格だ。でも、私の心は久しぶりに晴れやかだった。
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