ミルクキャラメル ¥146

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 最初は万引き犯を掴まえると得も言われぬ達成感があった。もともと正義感は強い方で、学生の頃はイジメを見つけると放っておけないタイプ。実際、学級委員には何度も選ばれたし、立候補したこともある。生徒会の役員もやっていた。おそらくそれは警察官だった父の影響だろう。「お天道様が見ている」というのが口癖で、本当に真面目を絵にかいたような人。だから、悪事を正すこの仕事は私に向いていたのだと思う。  それが三、四年目ごろになると、経験値から今まで見えていなかったものが見えてくる。単純な物欲で万引きする人は同情の余地がないけれど、強いストレスや精神的な病気で突き動かされるように、もしくは魔がさすように万引きする人というのが本当に多い。実行へと至るにはそれぞれに深い事情があり、聞いていると胸が苦しくなる。もっと早い段階でどうにかできなかったのかと、人ごとながら無力感にさいなまれるのだ。  そういう時、以前感じていた達成感はどこにもない。研修で習った手順どおり、ひたすらに万引き犯を掴まえ、バックヤードの事務室へ連れて行く。近頃はそれが虚しく感じられるようになってきた。拓夢が高校受験という大切な時期でなければ、部署替えを願い出ていたかもしれない。
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