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鬱々とした気持ちのまま、裏にある従業員出入り口から外へ出ると、買い物客を装って正面の入り口から店内へと戻る。ごく普通の容姿に中肉中背、買い物カゴを持った四十代とくれば、午後四時過ぎのスーパーマーケットに馴染まないわけがない。誰がどう見たって「今日の夕飯は何にしようかしら」と悩む主婦そのものだ。
いつもどおりに売り場を流していると、お菓子売り場で一人の少年に目が留まった。地元でも有名な進学中学校の制服に身を包み、すらっとした痩躯とメガネをかけた見るからに賢そうな風貌。ただ、頬のあたりはまだふっくらとしていてあどけなが残っている。私はその横顔に見覚えがあった。拓夢が小学六年生の時に仲良くしていた俊也君ではないだろうか。
彼の家は四代続く県議会議員のお父さん、お母さんは県立高校の教師という、堅くて立派なお家柄だ。拓夢とはクラスが違ったけれど、同じ図書委員だったのが縁で仲良くなったらしい。ウサギ小屋みたいな我が家にも何度か遊びに来たことがある。当時はテレビゲームの類いはなく、遊び道具といえばトランプやけん玉、旦那が置いていった麻雀セットぐらい。けれど、それが却って新鮮だったらしく、俊也君は麻雀にどハマリした。もともと成績優秀で頭がいい子だから、麻雀の複雑な役やルール、得点計算もすぐにマスターし、私と拓夢との三人麻雀で着実に腕を上げていった。
ところが、そのことが彼のお母さんにバレてしまい、「うちの子に麻雀を教えるなんて何を考えているんですか!」とお叱りを受けたのである。このクレームは今でも理解できない。麻雀は面白いうえにとても頭を使う高度なゲームなのに。
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