ミルクキャラメル ¥146

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 それはともかく、その麻雀事件と進学する中学校が別だったこともあり、俊也君とは段々と疎遠になってしまった。もっとも、拓夢とは今でも時々連絡を取り合っているみたいだけれど。  しかしながら、私が彼と直接会うのは麻雀事件以来、ほぼ三年ぶりだ。当時は私のせいでこっぴどく叱られたに違いない。直に会って謝る機会がないまま現在に至るので、私はずっとそのことを申し訳なく思ってきた。勤務中だけれど、挨拶して一言謝るくらいなら──そう思ってお菓子売り場へ爪先を向けようとした矢先、一瞬で変わった彼の表情に私はハッとした。  先ほどまでは至って無表情だったのに、今は何かを強く思い詰めるあまり、自分でも制御しきれない感情が彼の中でほとばしっているように見える。私はその横顔を何度も目の当たりにしてきた。自分を破滅させるとわかっているのに、どうにも抑えられない万引きへの衝動。そのネガティブなオーラが俊也君に覆い被さっている。  まさか、と一気に心拍数が上昇した。頭の中が真っ白になった刹那、俊也君の手が操り人形のように動き、商品棚へと伸びる。手にしたのは昔からあるキャラメルの小さな箱だ。件の三人麻雀時に「手が汚れない」という理由でよくおやつにしていたけれど、俊也君は初めてだったみたい。お母さんの方針で市販のお菓子は一切食べさせてもらえないのだと言っていたっけ……。
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