ミルクキャラメル ¥146

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 昔の楽しい記憶と現在の混乱で掻き乱され、平常心を失った私は動けなくなった。そんな中、俊也君はキャラメルを手のひらで隠すようにしながらブレザーの左ポケットへと滑り込ませる。その一部始終に『駄目だ!』と心の中で叫び、きつく目を瞑った。  目撃してしまった以上、彼がこのまま会計せずに店の外へ出た場合には、声を掛けなければいけない。今すぐに諭して万引きを止めさせようか? 友人の母としてはそうしたいところだが、曲がりなりにもこの仕事を続けて来た矜持がそれで良いのかと問うてくる。どうしたら良いのか思い悩んでいると、俊也君は相変わらず操り人形のようにふらりと方向転換し、お菓子売り場を離れた。 「俊也のやつ、なんだかすごく参ってるみたいだった」  芯を失ったように力なく歩く俊也君の後を追いながら、数日前に交わした拓夢との会話がよみがえった。曰く、模試の結果が芳しくなかったようで、俊也君が第一志望としている高校の合格圏にはギリギリのラインらしい。 「土日なんか十時間も勉強してるんだって! 俺が寝てる時間より多いなんて信じらんね~」  そこで「あんたはもうちょっと寝る間も惜しんで勉強しなさいよ」と突っ込んだのだけれど、俊也君は大丈夫なんだろうか、と心配になったことを思い出す。我が家みたいに経済的な心配はないのだろうけれど、そのぶん自分の意思や自由もないのかもしれない。俊也君が目指す県内トップの進学校は、彼のお爺さんやご両親の母校と聞いている。入って当然と思われているのだとすれば、かなりのプレッシャーだろう。
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