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逸る気持ちで俊也君を探すと、彼はレジ近くの雑誌コーナーに佇んでいた。もうここまで来ていたのかとドキッとしたけれど、そんなことはおくびも見せずに近付き、下手な芝居を打つ。
「あれぇ、俊也君じゃない?」
特段大きな声ではなかったのに、俊也君は両肩がビクン! と跳ね上げるほど驚いた。素早く振り返り、目の前にいる私を記憶の中から浚っているようだ。お互いそんなに変わっていないからすぐわかるだろうに、彼の頭の中は数式だの、歴史の年号だのに占拠されてフリーズしているらしい。
「忘れちゃった? 拓夢の母です。久しぶりね! 小学校以来じゃない?」
ああ……と合点した際に見せた笑みは自然で柔らかく、昔の彼と同じだ。そのことに少しホッとしながら、私はお節介承知で言葉を続けた。
「拓夢から聞いたわよ。一高を目指してるんだって? お勉強、すごく大変だろうけどさ、高校や大学は誰のためでもない。あなたがあなたの未来を創るために行くんだから。無理し過ぎたり、自分を見失ったりしたら駄目よ。自分を大切にして、ちゃんと息抜きして。……そうだ。これあげる」
そう言って半ば強引に買ったばかりのキャラメルを握らせる。自分のポケットに隠されたのと同じものに俊也君の目が釘付けになった。
「さっき何気なく買ったの。これを舐めながら三人で麻雀したこと覚えてる? 楽しかったよねぇ! 良かったらまた遊びにいらっしゃい。東風戦くらいならお母さんにもバレないでしょ?」
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