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かなしみは悪
「こんなことで泣くなんて情けない!」
「うるさい!泣く女は嫌いだ!もう向こう行け!」
そんなことを両親に言われながら私は18年生きてきた。泣くことは情けなく、迷惑をかけるということを家庭で何度も学習した私は、泣くことは悪事に近いものだと考えていた。
父と母は泣いているのを私は見たことがなかった。その代わりによく彼らは酒を片手に怒鳴り、怒りの引き金となったであろう会社の同僚や親族を罵っていた。
そのことから私はこの家では悲しむことは許されない代わりに、怒り恨むことは許されるのだと知った。
私はまだ14歳。田舎で電車も通らず高校も一つしかない私はこの家が自分の世界の大半を占めていた。この涙が許されない世界で生きていくには自分が適応していくしかなかった。
だから何があっても泣かないようにした。打たれても、外見を罵られても、お気に入りのゲームを捨てられても、何をされても、悲しみを必死にねじ伏せて蓋をした。
…
「なんなの…なんなのよお前は!気持ち悪い!
お前なんか出ていけ!!」
「は…?」
18歳の春、両親の言葉が理解できなかった。
いつも通り八つ当たりを受け、ボロ雑巾を顔面に投げられても真顔で味噌汁をよそって出したら、両親は突然私を拒絶した。
「なんで、なんで何をされても能面みたいな顔をするの!!もういや!お母さんを恨んでいるんでしょう!?怖い怖い!わたしはこの子に殺される!」
「おお、私の妻よ、可哀想に……お前はもう高校を出たら出て行きなさい、そして二度と家に帰ってくるな。」
両親が抱きしめあいながらこちらを睨んでいる。なんで?どうして?私は貴方の世界に適応しただけなのに、貴方のためにこういう私になったのになぜ拒むの。
その時、私は思い出した。
この世界では悲しみが許されず、怒りが許されるということに。
…ああ、危なかった。悲しむところだった。
ここでは怒らなきゃ。
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