放課後秘密クラブ

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 高校一年にして、僕はつまらない学校生活を送っていた。  学区ギリギリの高校に進学したのは誰も僕を知らない場所で、新しい日常をスタートさせようとしたのが失敗だった。  変わった趣味があるせいか、中学時代は友達があまりできなかった。いや、ほとんど友達と呼べる存在は僕にはいなかった。  僕のことを知らない場所へ行けば自然と友達が出来るだろうとタカを括っていたけれど、スポーツ校でもある校内で僕みたいに「オカルト」にハマるような薄暗い男子は僕の他には誰もいなかった。  誰と口を利く訳でもなく、クラスでも浮いた存在となっていた僕だったが、こんな僕にも友達ができた。  高校一年の夏休み前、昼休みに机でオカルト雑誌に目を落としていると隣のクラスだという女子に声を掛けられた。オカルト好きの僕の噂を聞きつけたらしかった。  初めて女子に声を掛けられたことに動揺しそうになったけれど、どうせ冷やかしだろうと顔を上げてみると、細面にメガネで一重、そして髪をお団子にした究極に地味な女子が目の前に立っていた。それが有村との出会いだった。 「きみが前田君?」 「そうですけど、あの、何ですか?」 「ねぇ、オカルト好きなの?」 「まぁ……心霊系はあんまりだけど……」 「心霊は完全に同意、懐疑派です。これ、伝わるかな……マジェスティック・トゥエルブ」 「ブ……ブルーブックプロジェクト」 「南極でマンモスを発見したのは?」 「質問があまりに、き、基本的過ぎる。バード少将」 「ブラフじゃなかった……ねぇ、私と一緒にクラブ作らない?」 「クラブ……ですか?」  こうして有村と僕はオカルト研究・主にUFO探索を目的とした「放課後秘密クラブ」を結成した。  学校から部費が出る「部活」として活動するには人数が五人以上、そして「健全な」心身の成長を基本としなければならない為、部活動として認められるのは最初から諦めていた。  ただ、クラブとして活動する分にはよほど過激な事でなければ「どうぞご勝手に」というのが学校側のスタンスだった。  活動は最新のUFO情報を週に一回ペライチにまとめ、図書館の隅のお知らせコーナーに貼り出すことがメインだった。  放課後に教室でオカルト雑誌やUFO本を拡げて話し込む僕と有村に、声を掛ける人は誰もいなかった。ただ、好奇と怪訝な目だけは死ぬほど浴びせられていた。 「クラブ活動」のおかげなのか、それまで誰にも話し掛けられなかった僕はクラスの男子から「UFO呼んでよ」と時々揶揄われる機会が増えた。  変化と呼べるものはそれくらいで、やっぱり友達と呼べるような存在は有村以外に出来なかった。  いつものように放課後の教室でオカルト談義をしていると、有村が前のめりになって囁くような小声で言った。  「ねぇ。前田君さ、ガチの話ししていい?」 「ガチ? ロバート・ラザーの話し以外なら大歓迎だけど」 「ラザーはあのブラフ自体がブラフって噂もあるけど、違う話し。私ね、実はアブダクションされたかもしれない」 「えっ! アブダクションって……いつ?」 「昨日の夜。ねぇ、こっちのこめかみ、傷あるの分かるでしょ?」 「傷? えっ、全然分からない……」 「マクロサイズだからきみには分からんか。いやはや、仕方なし」  アブダクションというのはUFOに誘拐されることを意味し、そのパターンだと大概身体検査をされたり、場合によっては何かを身体に埋め込まれたりすることが多い、と記事で見ていた。  有村は夢の中で目の大きなグレイタイプの宇宙人数人に囲まれていた、と証言していて、その際こめかみに何かしらのチップを埋め込まれたんだと猛烈な勢いで僕に言い聞かせ始めた。起きたらこめかみに傷が出来ていた、と言うけれど、その痕跡はあまりに小さ過ぎるのか僕には確認出来なかった。 「夢の最後にさぁ、「ディレ」が言ってたんだよね」 「ディレ? それ、グレイタイプのこと?」 「そう、探索UFOのリーダー。これからひと月の間毎日観察しに来るから、試しに合図を送ってみてくれって」 「それ、マジ?」 「マジ。でも、怖くて試してない」 「なんで!? せっかく至近距離でのUFO撮影、第五種接近遭遇のチャンスかもしれないじゃないか!」 「考えてもみてよ、だってグレイだよ? 目の前に来たら絶対怖いじゃん! でも、絶対に見たい」 「見たけど怖い……どうするの、それ」 「ねぇ、私がディレに話し掛けるから、一緒に来てくれない?」 「まぁ、別にいいけど」 「じゃあ、さっそく今夜とかどうかな?」 「オーケー、カメラのバッテリー確認しておくよ」  僕らは夜が訪れるのを待って、空が広くて見晴らしの良い場所を探した。あちこち探した結果、灯台下暗しとはこのことかと思ったけれど、学校裏の河川敷へ続く原っぱで僕らはUFOを呼ぶことになった。  カメラを手に、その時が来るのを僕は真剣に待った。隣では、有村が目を閉じながらブツブツとディレに向けて言葉を発している。  そうやって三十分くらい経った頃、空に飛行機にしては大きな光が浮かんで、ゆっくり空の下へ向かって動いているのが見えた。生まれて初めて見る未確認飛行物体らしき光に、僕は興奮した。 「有村、あれ! あれ!」  目を開いた有村は特に驚く様子もなく、ゆっくり動く光を眺めながら首を縦に振った。 「ね? 言ったでしょ」 「うん、本当だった……撮るよ」 「撮るなら早くしろ、ってディレが言ってる」 「わ、わかった! ディレに、ありがとうって伝えて」 「……アリエスタ、クレタ、ネス」 「それって……」 「ゼータリクティル語。教わったの」 「すげぇ……有村、マジかよ」 「ディレは地球語話せるから、こっちも少しくらい話せないとね」  その時の有村の顔は真剣そのものだったし、僕も真剣な顔でファインダーを覗いたり、有村の言葉に耳を傾けていただろう。  けれど、今にして思えば僕らが見ていたものは火球か、夜になったばかりで遠くの空の陽光を弾く飛行機だったのは明らかだ。  けれど、そんなつまらない本当のことを知るのはずっとずっと後になってからだった。その時は、本当のことなんて少しも必要なかった。  その後も僕らは毎晩のように夜になってから学校裏の原っぱで落ち合って、クラブ活動のUFO探索に勤しんだ。  初日のように驚くような発見は中々なかったけれど、UFOを夜空に探す合間に、僕らは初めてオカルト以外の会話を交わしたりもした。 「前田に聞きたいんだけどさ。あんまり遅い時間に帰って、お父さんとお母さん大丈夫なの?」 「うん、試しに部活に入ったって嘘ついてるから平気」 「え? 運動部じゃないよね?」 「写真部。カメラはあるし、道具も何もいらないから怪しまれないだろ?」 「そっか、確かに」 「有村は、大丈夫なの?」 「うち、お父さんいないんだよね。お母さんは基本、私のこと放置プレイだから」 「そうなんだ……なんか、ごめん」 「別にいいよ。そんな家、いっぱいあるし」 「なんて言えばいいか分からないけど……」 「そういうリアクション慣れてるからさぁ、何も言わなくていいよ。私にとってはセブンイレブンが母の味。ウケるでしょ?」  強がっているのか、毅然と話しているのか僕には何も分からなかった。ただ、テストみたいに正しい回答のある質問ではないものが投げられている気がして、僕の思考はすぐに行き止まりになった。  ファインダーを覗くフリをして、なんとなく浮かんだ答えだけを話してみた。 「有村さ、今度うちにご飯食べに来なよ」 「えー? 前田んち、めっちゃ遠いじゃん」 「まぁ……確かに遠いけど。うちは大歓迎だからさ、母さんも喜ぶよ」 「そういうのって、迷惑じゃない?」 「だってさ、僕たち友達じゃん」 「まぁ、そうだけど。いいのかな、そんなの」 「いいんだよ」 「みんなでご飯か……初めてだよ」  確か、その日は夜の生ぬるい風がとても強く吹いていた。近くの川の匂いが時々鼻を掠めて、僕らはその後やって来た無言の間を埋める様に「臭いね」って呟いていたっけ。  その晩も僕らはUFOを見つけることが出来ずに、学校の前の道で別れた。いつも無表情で手を振って別れる有村が、その日は本当に少しだけ嬉しそうな顔で手を振っていた。   そしてその日が、僕らの最後のクラブ活動になってしまった。  明くる日は一学期の終業式で、持ち帰る物が多くてUFO探索はちょっと大変かもしれないと思い始めていた。学区内ギリギリの僕の家は誰よりも遠かったからだ。  今日の放課後の活動はどうしようと思いながら鞄に教科書を詰めていると、クラスの大将でもあり、ラグビー部の八代に肩を叩かれた。 「おう」と声を掛けて来た彼は、ニヤニヤしていた。 「おまえに聞きたいことあんだけど」 「え、何?」 「前田って足速いんだってな。試合で会った昔の同級生に聞いたぜ?」 「さぁ……覚えてないけど」 「ただのUFOマニアかと思ってたからさ。おまえみたいな奴、完全ノーマークだったわ」 「だから、人違いだと思うけど……」  僕の足が速かったのは小学校までの話しだ。学年どころか、地域で一番速かった。小学校卒業までは大真面目に短距離走をやっていて、ジュニアオリンピックの候補にもなったことがあった。  小学校六年の夏休みに自転車で転んで足を怪我してしまい、入院することになった。僕はその期間で差し入れされたオカルト本にのめり込むようになり、オカルト脳になったまま退院した。足は治ったことは治ったけれど、以前のようには走れなくなってしまった。  そのことを両親に責められるたび、逃げるようにしてオカルトにのめり込んだ。小学校を卒業した僕はもう、走ることを辞めてしまっていたのだ。 「なんでおまえみたいな奴が運動部入らないの? うちさぁ、左ウイングがガラ空きなんだよ。使えるヤツいなくて、三年がおまえのこと連れて来いってうるせぇんだわ」 「何の話しか知らないけど、僕は僕でクラブやってるから……それに、誰が言ったのか分からないけど、もう前みたいには走れないよ」 「クラブってUFOごっこのことだろ? いつまでもガキみたいなことしてないでさ、目ぇ醒ませよ。あぁいうの、ダセェから。あと、死ぬ気で走ればまた走れんだろ。おまえ、気合が足らねぇんだよ」  初めて探索に出た夜に、空に浮かんでいた光を思い出した僕は少しだけムキになってしまった。 「ダセェっていう奴が減らないから、いつまで経っても世界が認めないんじゃないか! 僕は、見たんだ」  その途端、八代は大声で笑い始めた。クラス中のみんなに分かるように、僕を指さして笑い始めた。その声につられるように、クラスのみんなもクスクスと笑い始めた。  オカルトはいつもそうだ。バカにされて、嘘だとレッテルを貼られて、いつも真相が闇の奥へと押し込まれてしまう。  笑われようがなんだろうが、それでも僕はオカルトを捨てようとは思わなかった。  たった一人の戦友が僕にはいるから、笑い声なんか少しも怖くなかった。  それでも、そんな気持ちも八代のひと言で大きくぐらついてしまう脆いものだと、僕ははっきりと思い知ってしまった。 「あぁそうかいそうかい。まぁ精々がんばって、UFO見つけたらユーチューブにでもアップしてくれよ! カップルチャンネルでさ。登録しねぇけど」 「僕たちは別に、そういう関係じゃないよ!」 「えっ、そうなんだ。でも、有村はおまえのことが好きだって言ってるみたいだぜ?」 「え?」  八代の言葉に、リーダー格の女子が「わたし直接聞いたー」と楽しげな声を響かせた。  嘘だろう。そんなこと、あるはずない。  だって、僕はそんな風な気持ちで一度だって有村のことを考えたこともないのに。有村だって、そうだと思っていたし、そもそも好きとか付き合うとか、そんな風に考えたことなんかなかった。  鞄に教科書を詰める手はいつの間にか止まっていた。僕のことを構うことなく、女子達が厭らしい笑い声を立てながら有村のことを話し始めた。 「有村ってさぁ、中学ん時「ゴーストバスター」だったよね?」 「あっはは! ウケる! 思い出したわぁ。学校ん中でさぁ、ひとりで「今、そこに見えるから。私が祓うから動かない方がいいよ」とか勝手に色んな生徒に忠告してたよねぇ。幽霊見えるとかそういうのキモいからやめた方がいいよって言ってんのにやめないしさぁ、超キモくて「ゴーストバスター」って呼ばれてやがんの」 「どっちがバケモンだよ! マジウケる〜」  彼女達が嘲り笑う姿に、何故か僕は怒りを覚えなかった。その代わり、せっかく大金を見つけたのに全部がただの紙屑だったみたいな、急激に心が冷めて行ってすべてが虚しくなるような、そんな気持ちになってしまった。 「ゼータリクティル語。教わったの」  そう真剣な顔で言っていた有村を思い出して、僕は少しだけ苛立ちを覚えた。  鞄に荷物を全て詰め込んで、急いで廊下に出ると有村が立っていた。  頭の上に指を立てて、「よっ」と気軽に挨拶をする姿を見て、僕は何故か無性に悔しくなったし、何よりも腹立たしかった。 「放課後、集まるでしょ? 時期的にそろそろラストチャンスかも」 「今日は、やめとく。荷物、たくさんあるし」 「うちに置いとけば? 探索終えてから取りに帰っても遅くならないよ」 「…………」 「どうする?」 「帰る。じゃあ」 「そっか。ディレに「今夜、ツレは来ない」って伝えとく。ディレって前田のこと、結構好いてるみたいだし」 「……本当にいればね」 「明日から夏休みじゃん? ディレはもうあんま時間ないかもしれないけど、探索は続けるからさ。よろしく」 「…………」 「遠いかもしれないけどチャンス狭くなってるからさ、今夜あたり予定連絡してよね」  僕は荷物を床に叩きつけると、突然訳のわからない怒りが込み上げて来て、当たり前のように間違った方向にそれをぶつけてしまった。  一度噴き出してしまった怒りはすぐには引っ込まず、止まることもなく有村目掛けて一直線に走って行った。 「何がディレだよ! 何がゼータレクティルだよ! おまえ、心霊には懐疑的じゃなかったのかよ!」 「前田、もしかしてMIBに取り込まれた? カメラ貸して。至急、データ残ってるか確認する」 「うるせぇよ! やるなら勝手にやってろよ、何がチャンスだよ!」 「思考の波に変動出てるから、調べる必要があるよ。念の為、カメラ出してもらっていいかな?」  僕が何を言っても、有村は興味深そうに僕を観察するように眺めていた。どこまでも、冷静なように見えた。  噴き出した怒りは有村を食いつくすまで止まる気配がなかった。お願いだから、そこには嚙みつかないでくれと願っても、怒りは有村の急所を見つけた途端に容赦なく嚙みついた。  音もなく、心の血しぶきが吹き上がるのを感じた。  急所に嚙みついた怒りが吐き出した言葉に、有村の顔色がどんどん変わって行くのが分かった。 「これ以上、僕に付き纏うなよ、はっきり言って迷惑なんだよ!」 「付き纏うって…………そんなの、ないじゃん」 「僕のことが好きだって聞いたんだよ! やめろよ、そういうの! ディレのことだって、どうせ嘘なんだろ? 僕は真剣だったんだ。マジでふざけんなよ!」  心のどこかで、「そんな訳ないじゃん!」って返してくれることを期待していた。有村の怒りが、反発が、僕の怒りを嚙み砕いてくれると思っていた。  痛みも傷もまだ何も知らなかった僕は、有村にぶつけて傷つけることで、彼女に甘えていたのかもしれない。  有村は僕の言葉を否定しなかった。  廊下に突っ立ったまま少しだけ疲れたような顔で笑って、こう言った。 「ごめんよ」  僕は荷物を拾って、すぐに学校を飛び出した。  有村からすぐにでも離れたかったし、しばらく口を利くのもごめんだと思った。  そうやって、僕は有村のすべてから逃げ出した。  二日後。あんまりにも強く言い過ぎたことを反省して、夜になる頃合いを見計らって学校裏の原っぱへ向かってみた。  なんとなく有村が居る気がしていたけれど、そこには誰の姿もなくて、川から吹き込んだ生臭い匂いだけがやたらと鼻をついた。  広い空に、大きな光がゆっくりと動いているのが見えた。少しだけ驚いてじっと見続けていると、明滅し始めた。やがて近付いて来たその光は、自衛隊の飛行機だとすぐに分かった。  一人で立つとこんなにつまらない場所だったことに気が付いて、僕はすぐに家へ帰った。  夏休みが明けても、僕らが声を交わすことはなかった。 「放課後秘密クラブ」のペライチも更新が途絶え、やがて図書館の片隅からも姿を消した。僕はラグビー場で左ウイングとしてひたすらシゴかれる日々が続いたけれど、冬には早くもドロップアウトしていた。  八代に「全然遅ぇじゃねーか」ってキレられたけれど、僕が「だから言ったじゃないか!」とキレ返すと、素直に謝ってくれた。  春が過ぎて次の夏がやって来ると、金髪になった有村は陽に焼けた肌を男とくっ付けて校内を歩くようになった。  ますます僕らの接点はなくなって、それから二度と話すことはなく卒業し、僕らは別々の道へ進んで行った。  社会人になった僕は仕事に追われ、毎晩帰りの遅い日が続いた。  たまたま早く帰れる日が一日あって、あちこち予備を切らした生活用品を求めて帰り道にあるドラッグストアで買い物をすることにした。  ひと通り買い物を終えてトランクに積んでいると、僕の背後を親子連れが通り掛かろうとしていた。  通路に置いていたペットボトルの箱が邪魔になると思い、すぐに引っ込めようとすると母親が足を止めた。  母親の顔を見た瞬間、それが誰なのかすぐに分かった。  頬がだいぶふっくらとしたけれど、間違いなく人の親になった有村だった。  僕らは目を合わせて立ち止まったものの、なんて挨拶して良いかわからず、かと言って無視する訳にもいかず、軽く頭を下げた。 「やっぱり、前田じゃん!」 「うん、久しぶり。元気にしてそうで、良かったよ」 「あんたもね。あっ、悠平! 子どもいるから、またね!」 「あぁ、また」  また、なんてあるのかな。  駆け出した背中に、僕は何か声を掛けたくなって、気が付いたら叫んでいた。 「有村!」  子供の背中を捕まえて、有村は振り返った。僕の口をついて出て来たのは、僕でさえも忘れていた、懐かしい言葉だった。 「南極でマンモスを発見したのは?」  子供を抱き上げ、片手で買い物カートを引き寄せた有村は笑いながら叫んだ。 「バード少将! 知らなきゃブラフだよ」  カートが転がる音と一緒に、有村は僕に構うとなくお店の中へ入って行くと、僕はなんだか可笑しくて笑いながらトランクを閉めた。  多分、もう会うことはない気がしても気分は何故か晴れやかだった。  懐かしい気持ちだけを置き忘れたまま、僕はゆっくりとアクセルを踏んでドラッグストアを後にする。  夕暮れの空にはひときわ大きな光を弾く、白い尾を引いた飛行機が飛んでいた。
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