「砂の山」

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 その女子は驚くことに男なら誰でも虜になるまりあだった。 「いや、ごめん。見てたわけじゃなくて」  なんでまりあが。  いつもふわふわ笑っている可憐な彼女が、まるで獣みたいに。 「じゃあなに。立ち止まってないで早く行けよ」  ふわふわと喋る、小さな桃色の彼女の唇からこんなに乱暴な言葉を聞くことになるなんて。 「釘付けになっちゃって」  辛うじて出てきた言葉の後、とんだ間ができた後「それ見てる、つーんだよ」とようやく胸倉から手が離れた。 「……何してたの」  そうだ。すぐにまりあだと分からなかったのは髪型のせいだ。いつもはふわふわした髪を下ろしているのに今はざっくばらんにひとつに結び上げているのだ。 「早く行けよ」 「靴、汚れちゃうよ」 「元から汚れてんだよっ」  元から汚れてる?  足元を見ると空き地横の白い街灯に照らされて革靴に書かれた「死ね」「消えろ」「ブス」の黄色やピンクの文字がはっきりと見えた。 「こ、れ」 「分かっただろ。だからここにいた。こんなことでしか鬱憤晴らせないガキだけどな!」  まりあはそれからズカズカと大股で歩くと土管にどさりと座った。  だけどその歩みはさっきの怒りに任せた歩み方とは違う。
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