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『会いたい』
別れたはずの不倫相手から、突然そんなメッセージが届いたのは、三月の終わりの黄昏時だった。
二十二歳から三十歳までという、一番華々しい八年間を、「妻はただの同居人に過ぎないから」と宣う彼の言葉をバカ正直に信じて捧げて……。
それだけの年月を費やしてやっと……。愚かな私は、彼とは絶対に一緒にはなれないと悟ったから……。
一生懸命頑張って、あなたにさよならを告げたの。
なのに……どうしてあなたは私が離れようとするたび、そんな風に私の心を揺さぶってくるの?
あなたとのこういう攻防もすでに何度目か覚えていない。
でも、今回だけは……絶対に折れないって心に誓っていたから。
私は「会えない」と彼に返したのだけれど。
すぐに折り返しの電話が掛かって来てしまった――。
✼••┈┈┈••✼
彼の電話番号を着信拒否出来ない自分にも非があるのは分かっている。
でも、彼はちょうど今頃。――春の人事異動の時期になると鬱を患う人だったから。
何度も繰り返す彼の中での〝死にたい〟と言う時期を幾度となく支えてきた私は、何となく彼を切り捨てることが出来なくて。
もう、絶対に復縁するつもりも会うつもりもない癖に、連絡先だけは消せずにいたのだ。
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