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「なぁ、本当に無理なの? 会えないの? 俺はお前に物凄く会いたいんだ。お前の顔を見たら死にたいと言う気持ちを追い払える気がするから」
そんなの奥さんに言えばいいのに――。
とっくの昔に冷め切った夫婦だからと言いながら、八年間――。
何だかんだと理由を述べては別れることすら出来なかったくせに……あなたは弱った時だけ私を頼ってくるのね?
ぐっと涙をこらえながら「ごめん。……もう会えない。私、あなたとの未来を夢見るのに疲れたの。もう……無理だよ」って告げたら、彼は一瞬だけ黙って。
「……そうか。……そう、だよ、な。お前も俺とは交わらない新しい道を歩き始めるって決めたんだもんな? ごめんな。いつまでもお前に甘えられるような気でいて。……俺も! お前がいなくても立っていられるように頑張るわ。新しい道、ちゃんと歩くよ」
って、存外心強い調子で笑ってくれた。
気弱になっている時の彼がこんな風に前向きになることなんてなかったから。
私は、私が彼を甘やかしすぎていたのがいけなかったのかな?って思いながら電話を切った。
それが、彼と話した最後の会話。
✼••┈┈┈••✼
そのあくる日の夜だった。
彼と私、共通の知り合いから「彼が死んだ」と連絡を受けたのは――。
自殺、だったらしい。
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