第1話 救いと出会い

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第1話 救いと出会い

暗闇の森の中。そこはただ、それだけがあった。 月の光は弱く、木々の葉に遮られて大地にまで届かない。 まるで黒い水の中を歩いているようだった。 いや、それはある意味正しいのかもしれない。 そんな森の中で、ひっそりと彷徨っている1人の少年がいた。 すでに街の喧噪は遠く、あたりに人影はまったくない。 「……どこだ。例の奴隷の子は。」 少年は俯いたまま、ぶつぶつと呟きながら森の中を彷徨っている。 「助けてあげるからね……すぐ助けにいくから……。」 少年が呟いた瞬間、風が吹いた。 ザザアァァッッ!!!っと激しい風の音と共に木々がざわめき出す。 まるで何かに怯えるように。これから何かが起こる事に気づき、怯えるかのように辺りの空気は騒ぎ出していた。 「ここか。扉は。」 少年は何もいないことを確認すると、左足の膝をつけてその場にしゃがんだ。そして、左手を地面にかざすように置いた。すると左手から青白い光が漏れ出してきた。その光は左手の先に延びていき、光の先端は地面に掘り込まれていく。 そして、少年は一心不乱に地面に左手を叩きつけ始めた。 「……違う、ここじゃないな……いや、あった!これだ!」 しばらくして地面から何かが突き出したのを確認すると少年は後ろに下がり立ち上がった。 「ようやく見つけた……。」 ガガガガッッ!!力強い地面の音とともに自動的に少年の前の一角が扉のように開いた。扉の先には暗闇の中まで続く石段があった。 「やはり…ここがそうか。」 少年が何かを確信したのか、不敵な笑みを浮かべると石段を降りていった。降りた先には古いレンガで作られた部屋の中にたどり着いた。壁には火のついたろうそくがいくつも立てられていて、柔らかい明かりが部屋を包んでいた。 少年は満足げな顔を浮かべると、その部屋の奥へと進んでいった。部屋の中の一番奥、そこに置かれている大きな檻には男の子が1人いた。 「こいつか、奴隷番号NO.234。セル・ルミュール。この世界で唯一人体改造によってウサギと人の混血を持つことになった、俺と同じ獣人族の奴隷は。」 すると、セル・ルミュールと呼ばれた少年は、人狼の少年に向かって顔を出した。服や顔、身体が汚れていて疲れ切った様子だった。よく見ると顔や腕などからいくつもの傷ができていて赤く染まった血が出ていた。ただ、顔の形から見るに、少年だと言うことは確認できた。 「た…助けて…くだ…さい。」 それを見た人狼の少年はガリっと奥歯を強く噛みしめた。「助けにきた。奴隷番号NO.234。」 その一言を聞いた瞬間、檻の中の少年は藁にも縋るような表情を浮かべた。しかし、その顔はすぐに曇り始めた。 「たす……けに?僕……を?」 「そうだ、助けてやると言っているんだ。」 人狼の少年はそう言ってセル・ルミュールという名前の少年に向かって手を差し伸べたのだった。それに対して檻の中の男の子は疑いの気持ちが出たのか首を傾げながら言った。その様子は少し悲しそうな顔ではなく怒りに満ちた顔をしていた。 「なんだ。何か文句があるのか?俺が嘘をついていると?」 「そんなこと……ない。でも……本当にこの檻の鍵を壊せるの?」 そう言って、セル・ルミュールという少年は人狼の少年の腕をじっと見つめていた。そこには少年の腕に似つかわしくないいかついガントレットがはめられていたからだ。その腕はおそらく何度も踏みつけられた手だと理解できた。 人狼の少年は右手の拳に力を集中させると、だんだんと青白い光が集まってきた。 「はっ!!」 バキッッ!!!檻は大きな音とともに亀裂が走り粉砕していった。 「セル、もう大丈夫だ。」 それを見たセルは大きく目を見開いていた。そして目から雫があふれ始めた。 「うっ……ううう。」 セルはその場に座り込んで檻の中の鉄格子で擦れてできた傷を痛そうにさすりながら泣き始めたのだった。それを見ている人狼の少年も満更ではない顔をしていた。そして、セルが泣き止むと少年の顔を見ながら言った。 「あの、お名前をうかがってもいいですか?」 すると、少年はキョトンとした後、にっこりと微笑みながら言った。 「俺の名はキャラミア・エアロ。この世界の第6番王子、『獣の王』の称号を持っているものだ。」
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