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12
目が覚めたら部屋はまっくらで、おいらは布団をかけて寝かされていた。
あーあ、やっちゃった……。後でお叱り受けるかな……。
そういう店ではないから、折檻されることはないと思うけど……、他の奉公人からしたら、次期亭主とぼぼして、勤めを怠けさせてしまってるから、印象は悪くなってそう。
千歳は優しいからおいらにかまってくれるけど、おいらは独り占めして良い人じゃない。千歳を独り占めするのは、女房であるあきの姐さんのはずだし。
だけど、おいらも……、ああ、いけないいけない。まっこと、惚れちゃいけない。もう手遅れだけど。
「あらぁ、お目覚めやの?」
「おけいさん……」
「起きたなら自分の部屋にお戻り。ここは夫婦の部屋。あなたがいて良いところじゃないの」
「……あい」
おけいさんが蝋燭を持って、部屋に灯りをつけている。
敷布には、欲がこびりついていた。おいらの? 千歳の? どっちのだろう……?
「敷布も換えなあかんの。早く退いて」
「あい!」
「……あなたやと、千歳の女房にはなられへんの。わかってる?」
「あい、わかってる」
「それならええの」
おけいさんは微笑んでた。今までに見たことがないくらいに綺麗な笑顔だった。……なにかを抱えた、底知れぬ怖さのある笑顔だ。
おいらは部屋を出る。自分の部屋に戻ったら、夕餉が置いてあった。
既に冷めてる味噌汁、白い飯。たまにジャリッと砂を噛むけど、ごはんが美味しい。猫に齧られたような跡のある焼き魚も美味しい。塩加減がちょうどよくって、噛んだらじゅわっと脂の甘味が口の中に広がっていく。
おいら、こんなに幸せで良いのかな……。体を売らずに、好きな人にも抱いてもらえて、幸せで良いのかな……。
涙が流れていく。視界が滲んで、噛みしめた米粒がしょっぱい。
「十瀬ー。部屋に戻ってるー? 入るで」
あきの姐さんが来た。おいらが泣いてるから驚いた顔をしてた。
「ど、どないしたん? あたし、塩加減間違えてた?」
「ううんっ、ごめ……。気にしないで……っ」
「そ、そう。そんならええんやけど。そんだけで夕餉足りる? まだちょっとなら残っとるはずやけど」
「だいじょうぶ。おいら、これでおなかいっぱいになるよ」
あきの姐さんは何か用事があって来たはずだ。
おいらが食べ終わる時分を待って、口を開いた。
「ちぃちゃんがな、十瀬に無理させたんやないかって心配してたんよ」
「無理って……、おいら、何も無理なことされてないよ。どちらかというと、おいらが無理させた気がするくらいだし」
「まあ、ちぃちゃんは心配性なところもあるから。でな、あたしが話したいんはそうやなくて……、その、ちぃちゃんって、好きな手あるん?」
「へっ? 好きな手?」
「あ、あんま大きな声で言わんといてぇ! 恥ずかしいやんかぁ。ほら、あたしも、子ども産んで、しばらくしたら、またちぃちゃんとぼぼしたいと思ってるし……、ちぃちゃんだって、したいって思ってくれたら良いかなぁとは思うんやけど、好きな手があるなら、それしてあげたいやん」
「どうだろ……。する機会があったら聞いてあげるよ」
「ほんまか! お願いするわ!」
あきの姐さんは嬉しそうに自分のお腹をなでなでしながら話していた。
子どもが産まれたら、また交合すことも増えると思う。そんで、また子ができたら良いんだ。そのほうが店にとっても、おけいさんや小焼様にとっても、良いだろうし。
だけど、千歳の好きな手って何だろう……。正位でひしっと抱き締めあって口吸いしながら奥を突いてあげたら気をやってたし、後ろから陰茎を扱きながら突いても悦ぶ。
おいらを抱いてる時なら……、おいらが体位に変えちゃうから、千歳の好きにしてもらわないとわからないや。ひしっと抱き合って口吸いするのが好きだとは思うんだけど……。
「ねえ、あきの姐さん。千歳あにぃ、口吸い好きだよ」
「そうやな! 口吸いしながら下弄ってあげたら、気をやるのが速いような感じするし!」
「手技教えよっか? そのお腹だと大変だろうけど……」
「教えてもらえるなら御の字や! こっちから頼むわ! 早速教えてや!」
「うーん……。それなら、張形がないと……」
「十瀬のまらでええんやない?」
「あきの姐さん大胆なこと言うね」
おいらはそれでも良いけど、千歳がどう思うかわからない。
手習いってことになるから、大丈夫かな……。それに、おいらは男妾だから、あきの姐さんの相手をしても問題無いはず。
こっ恥ずかしいところもあるけど、おいらは褌をずらして、まらを取り出す。
「と、十瀬って、顔に似合わず、立派なモン持ってるんやな……!」
「よく言われるよ。そいで、まずは全体をやわやわ握って――」
これ、ひとりあそびしてるところを見せることになるから、ぞわぞわする。
急にあきの姐さんが「あたしにやらせて」って触るし、優しく扱かれて、すぐに棒のようになっちゃった。
「っぁ……! 上手だね。そのままっ」
「おん。こう? こうしたらええ?」
「あっ、あっ……!」
今日は何回も交合したからか、体が敏感になっちゃってるみたいだ。
あきの姐さんに教えないといけないのに、雁首をきゅぅっと摘ままれるだけで、痺れてしまう。吐く息が甘く香る。
「あきのー、ここにいますかー?」
「あ、ちぃちゃん」
「ヒッ!」
「ごめん十瀬! 痛かった? って、あれ? 気ぃやったんや」
部屋に千歳が来た。あきの姐さんが気を取られて、ぎゅうっと強く掴むから、その刺激で気をやってしまった。あきの姐さんの着物にもおいらの精汁がついちゃったし、手も精汁にまみれてる。
千歳はおいらとあきの姐さんを交互に見た後、目を閉じて、深くて細い溜息を吐いた。そして開いた目が、蝋燭の火を映して赤く見えた。
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