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5
菊座をくじられる度に、床で出たことがないような甘い声が落ちる。
おいらって、こんな声出るんだ……って、他所事のように思っちまったくらいに、不思議だ。
「あっ、ああっ……! あー! あ、あにぃ、イッ、良いよぉっ!」
「ここ、ですか?」
「そこっ! そこ、きもちいっ、いいっ!」
店にいた頃は、自分で動いてたし、客に大事な商売道具である菊座を触らせることなんて滅多に無かった。言っても聞かなかった我儘な客以外は、おいらを好きに触ることなんてできなかった。
だから、こんなに好き勝手触られたら、痺れが身体を駆け巡るなんて、知らなくて……。
おいらが相手してきた客は、みんな、こんなに気持ち善がってたのかな、と思ったら嬉しくなった。
あにぃはおいらを抱きかかえて、体位を変える。おいらの脚を掴んで、左右に大きく開かれた。
「ちょっ、ちょっと、あにぃ……! こっ恥ずかしいよ!」
「十瀬が照れてるところって珍しいな、と思って」
「ちょっとぉ……! アッ!」
千歳あにぃはおいらのまらに口を寄せて、つーっと裏筋を舐めあげた。
気持ち良いけど、さすがにこんな下男のようなこと、させるわけにはいかないっ!
「あにぃっ、だめっ! それ、駄目だって! そんないやしいことしないで!」
「いやしくないですよ。私が十瀬にしたいだけなんで」
「ヒッ! あっ、ちょっ、ちょっと、だめ、だってぇ……!」
鈴口を舌先で突かれて声が裏返った。これで味をしめたらしい千歳あにぃは、更に深く咥えこむ。舐めるだけじゃなくて咥えるなんて、玄人も滅多にやらないのに。
じゅぷっじゅぷっと、水音を立てながら咥えられて、なんとも言えないくらいに、気が悪くなってくる。おいらのを口に含みつつも、あにぃは空いた手でおいらの菊座をくじってくるから、快感で身体が痺れちゃう。
甘い声が次から次へと零れ落ちていく。もう駄目。出ちゃう。
「あにぃ、おいら、もっ、出ちゃうっ! 出ちゃうからっ……!」
「はふっ?」
「えっ、わ、アアアーッ!」
ちゅうっと吸われて、そのまま口の中に出しちまった。
千歳あにぃは、けほんけほんっと噎せている。それから口を開いて、おいらが出した精汁を見せつけて、ごくんっと飲み込んでいた。
「の、飲まなくて良いよっ! 腹壊しちまうよ!」
「胆力が付くと聞いたので大丈夫ですよ」
あにぃはおいらよりも頭が良いから、そうなのかもしれない。おいらは飲み込んで腹を壊したことがあるから、あんまり飲まないようにしてるんだけど……。
……千歳あにぃ、最初嫌がってたのが嘘のようにおいらに乗っかってきてるや。やりたいの我慢してたんだろうなぁ。
入れさせたほうがいいかな……。おいらもなんだか、こっちをしたくなってきた。
自分で菊座に手を添えて、そーっと開きつつ、声を出す。
「千歳あにぃ。入れて」
「良いんですか?」
「菊田様に穢されてるから、あにぃが清めてよ。女にやるようにすれば良いから、入れて」
「……はい」
あにぃもけっこう気が悪くなっているようだ。
獣のように荒い息を吐きつつ、おいらの菊座にまらをあてがって、ゆっくり沈めていく。入ってくるのがわかる。菊田様のすぼけまらとは全然違う、ちょうど良いまら。大きすぎず、小さすぎず……、おけいさんには「中まら」って言われていたと思うけど、おいらは「上まら」だと思う。
おいらの中に全部埋めて、あにぃは目を閉じて、歯を食いしばっていた。入れただけで気をやりそうになってるの我慢してるみたいだ。
「あにぃ。おいらの中、気持ち良いの?」
「気持ち良いです……っ、すみませ、長く、もちそうに、なくて……っ!」
「いいよ。おいら、上開をもつ天神様だからね。もしかしたら、おけいさんのぼぼよりも良い心地かもしれないよ」
「さすがに母のぼぼは試せませんよっ」
ゆるゆる、腰が動く。おいらの好きな場所が擦れて、一際甲高い声が出ちゃったから、あにぃはそこばかり擦るようになった。
「アッ! アアッ! あん、ん……! あ、あっ! あ!」
「……っ、……ん、十瀬……! そろそろ、……っ」
「いいっ! いいよっ! いっしょに、アッ! あーッ!」
星が散る。おいらのまらからもびょくびょく精汁が出てる。
おいらをぎゅうっと抱き締めて、千歳あにぃは気をやった。流れる感覚が伝わってきた。いっぱい出してくれてる。もしかして、中で潮吹いちゃった? それはそれで嬉しい。おいらでいっぱい感じてくれたなら嬉しい。
「あにぃ、だいじょうぶ?」
「はい……」
「あれ? またきざしてる? 千歳あにぃってけっこう腎張なところあるよね。そりゃ小焼様に助平って言われちゃうわけだ」
「こ、これは、ずっと、してなかったから、で……!」
「あきの姐さんに手で抜いてもらったら良かったのに」
「腹が大きくなって大変そうなのに、そんなこと頼めませんよ……」
まだ熱が治まりそうにないようで、千歳あにぃのまらはおいらの中に埋まったまんまだ。すぐに引き抜かなかったのは、おいらを孕ませたいとでも思ってくれたのかな……。
おいらはちょっとだけ体を起こして、あにぃの頬に手を添えて唇を吸う。すぐに応えてくれて、舌を舐め合ったり、吸い合ったり、たっぷり口吸いを楽しむ。その間も腰はゆるゆる動いていて、気持ち良い。頭がぼーっとしてきちゃうくらい。
「あにぃ、もっと……大腰に使って……!」
「こうですか?」
「ひっ! あ、っ……! まっ……、んンッ……! あ、いっ、いいっ!」
想像以上に激しく突き上げられて、気をやっちゃった。
おいらと千歳あにぃの腹の間に精汁が散る。あにぃはおいらのまらも手で扱いてくれてるから、いっぺんに気持ち良くなって、口も痺れてきちゃってる。
「……あきのっ」
気をやる時に聞こえたのは、おいらの名前ではなくて、千歳あにぃの大切な女房の名前。
そりゃそうだ。あにぃはおいらよりも女房を愛するのが常ってもんだ。
……わかってるのに、何でだろう、苦しい。涙が溢れて、目の前が滲んで見える。
「すみませ、んっ、私……!」
「いいよっ、おいら、……、代わりにして……」
ハッとした顔をした千歳あにぃは、おいらの涙を拭った。
おいらは、代わりで良いんだ。そう、代わりで良い。夢夏の時もそうだった。夢夏の代わりでおいらは良いって言った。
だけど、あにぃは、代わりにはしたくないって言っていて――……。
それだけ大切なものが見つかったってことなんだ。だから、これは喜ばないといけないんだ。
だけど、胸が苦しくって、涙が止まらない。
「ひっ、く……、ごめっ、おいら……、ごめんなさ、い……」
おいら、何に謝ってんだろ。
おいらが泣き止まないから、千歳あにぃも泣きそうな顔になってる。ううん、もう泣いちゃってる。綺麗な青い瞳から、ぽろぽろ流れてる。
泣かせるなんて、ひどい。
おいらは手を伸ばして、あにぃをぎゅうっと抱き締める。あにぃは目を閉じて、唇を重ねた。舌を吸い合って、唾液を飲み込んで、頭がぼーっとする。
「十瀬。すみません。謝っても許されないことだと思います。許しは要りません。私は……」
「だいじょうぶ。おいらなら、だいじょうぶだよ。だって、おいら、元々、夢夏の代わりのようなものだったし! ねっ?」
「……十瀬は笑ってるつもりかもしれませんが、そう言っている時のお前は……、いつも寂しそうですよ」
ぎゅうっと抱き締めて、もう一度口づけ。
おいら、笑えてなかった……? 寂しそうって……?
「十瀬は十瀬ですから、代わりになんて、ならないでください」
「……うん。あにぃがそう言うなら」
「名前で呼んで」
「千歳あにぃ」
「あにぃも必要無い。そのままで」
「でも、おいら、下男だし?」
「いえ。お前は男妾ですよ。……私の」
男妾だと、あきの姐さんのもののような気もするけど、おいらにとっちゃどっちでも良いや。
「千歳」
「ふふっ、なんだかくすぐったいですね。夢夏も房事の時は私を呼び捨てにしてたくらいだってのに」
「あー、また夢夏の話してるー」
「……あはは、忘れられないんですよ。悔しいですね」
そう言って悲しく笑う千歳は、まっこと美しくて、寂しそうだった。
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