凱旋パレードだってのに。

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凱旋パレードだってのに。

 それは突然の事だった。 「わああ~。おめでとうございます! 聖女さまばんざーい、王子様ばんざーい!」  大通りでは騎士たちと魔導師たちが馬に乗り隊列を組んでゆっくりと進む。  その中ほどでは屋根のない豪華な馬車の上に白と金の豪華な礼服を着たこの国の王子と、純白のレースを幾重にも重ねた豪華なドレスを着た長い黒髪を背中に流した美しい公爵令嬢が並んで座り、民衆に手を振った。  魔力と武力と知力の全てに優れた王子と、貴族の中で一番忠実な家門である公爵家の一人娘が力をあわせて魔と戦い、この国、いや、世界の危機を救ったのはほんの一月ほど前。  とくに公爵令嬢は強力な神聖力に目覚め、荒廃した大地も癒してくれた。  しかも、二人はとても若く美しい。  そして仲睦まじい様子はまるでおとぎ話の恋人同士のようで、ますます人々は熱狂した。    通りに面した建物の窓は全て開き、人々が上から紙吹雪や花びらを放る。  自分も腕に下げている小さな花かごから花を掴んでは隊列に向かって投げるが、幾重にもできた人垣の後ろの方に立っているため、届くことはない。  それでも、周囲の人たちもみな、お構いなしに切り刻んだ色とりどりの紙と花を通りの中心めがけて投げ続けた。 「おめでとうございます~!」  背を伸ばし声を張り上げて、拍手するために両手を高く上げたその瞬間、不快な感触にそのまま固まった。  がしっっっ。  視線を落とすと、両方の胸のふくらみを毛むくじゃらな手がわしづかみにしていた。  耳元から生温かく、アルコールと魚の腐ったような匂いが吹きつけられ、不快度はますます爆上がりだ。 「ねえちゃん、いいチチしてんなあ…」  しゃがれた声にぷちんと頭の中で何かが切れる。 「ちち…?」  うつむき震えながら身を任せると後ろの男は「へへ」と笑う。  油断して相手の身体の力が抜けた瞬間にざっと全身を下へ落とした。 「は?」  一瞬のことに両手を開いたまま驚く中年男の下半身の中心がちょうど目の前にあった。 「こんな時に発情してんじゃねえよ、このクソおやじ!」  拳を握りしめ、渾身の一撃をお見舞いした。
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