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せっかくのギルド会議への出席だというのに、ろくな会話も出来ずに帰ってきてしまった俺は、もはやマギステルの称号はく奪の不安で頭がいっぱいになっていた。
そんなことを考えながらセブンスギルドの扉の前まで戻ってくると、ちょうどそこに人の姿があった。
「あっ」
そこにいたのは、つい先ほど決闘をした氷魔法使いの美女だった。彼女は俺の声に気づくと、黙って俺に歩み寄ってきた。
歩き方まで美しい彼女に惚れぼれとしていると、おんぶしているキャシィが俺の頬をつねってきた。
「いでで、なにすんだいきなりっ」
「マギステルからいやらしい波動を感知しました」
「変なものを感知するな」
「ですが、魔神を目指す人たるもの、一人の女性で満足できる器ではございませんから、キャシィは全然許します」
「じゃあ、なんで頬をつねってきたんだよ」
「女とは、唯一の愛が欲しいものです」
相変わらず矛盾を伴った発言をするキャシィを横目に、目の前まで来ている美女は、俺の顔をじっと見つめながら冷たい表情をしていた。互いに微妙な雰囲気になっていると、やはりキャシィがこの空気をぶち壊してきた。
「何の用ですか負け犬」
ド直球のストレート発言に、美女は表情を一切変えることなく頷いた。
「えぇ、私はあなたに負けた、だから、私をセブンスギルドにいれて欲しい」
突拍子もない依頼、キャシィの事だから、また、ろくでもないことを言い出しかねないと思い、すかさず彼女の口をふさいだ。そして、目の前にいる氷の美女をギルド部屋に入るように促した。
ギルド部屋に入ると、とりあえずキャシィをソファに寝転がせた。
いまだ痛々しい傷跡が残る彼女の事を気遣いながら、氷の美女の話に耳を傾けようとしていると、彼女は俺の傍まで来ており、キャシィの事を覗き込んでいた。
「どうして、こんな初等の回復魔法で治療しているの」
「いや、これには訳があって」
訳もくそも、こんなのしか使えないのが現実なんですけどね。と言ったら、彼女はどんな顔をするのだろうか?呆れてこのギルドに入ることをあきらめてくれるだろうか?
なんてことを思っていると、キャシィが騒がしく喚き始めた。
「そんなものっ、一秒でも多く看病してもらいたいからに決まっていますっ、そんなこともわからないのですか、この負け犬っ」
キャシィの言葉に、氷の美女はわずかに眉間にシワを寄せると、何を思ったのかキャシィの傷を治癒し始めた。
見て分かるほどの高等回復魔法、それによりキャシィの傷はあっという間に治った。
すると、キャシィは治してもらったというのに、悲痛な声を上げながらもだえ苦しみ始めた。そして、それとは対照的に氷の美女は微笑んでいた。
「これでマギステルとゆっくり会話ができる」
そうして、俺は氷の美女との話に耳を傾ける事にした。
対面して座り、まるで面接でも始めようかと言わんばかりの状況に、少し緊張した。
「えっと、セブンスギルドに入りたいっていうのは本当なんですか?」
「えぇ、入るならここがいいと思った」
「ちなみに志望動機的なものは?」
「簡単、手っ取り早くこの大学のトップになれる」
単刀直入だが、それにしては志望動機にならない言葉に俺は少し困惑した。大学のトップになりたければ、手っ取り早くファーストギルドへの入会を挑戦すればいいと思うのだが、どうにもそうじゃない様子だ。
「ファーストギルドになればこの大学での権限をほぼ掌握することができる。私はそれが欲しいの」
「それなら、まずはファーストギルドのメンバーになる方がいいと思いますけど、あるいはマギステルを目指すとか」
「私が欲しいのはファーストギルドの利権と圧倒的な力、マギステルはいらない」
「でも、あなたのような人はファーストギルドのメンバーになれるほどの実力があるように見えたんですけど」
「ありがとう、でも、絶対的な力ではない」
「と、いうと?」
「私がセブンスギルドを選択したのは、あなたの能力に惚れたから」
「・・・・・・」
彼女の言葉に思わずにやけてしまいそうになった。
だが、自らの力を過信しない俺にとって、その褒め言葉は俺を憂鬱にさせるだけだった。そうして、若干病んでいると目の前の彼女は嬉々として喋り始めた。
「あなたが用いる魔法は初等魔法、誰にでも使える低コストなもの。けれど、あなたの魔法は、確実に私の氷の障壁を潜り抜けて私の星泉を閉ざしたわ」
「・・・・・・あ、あぁ」
「それはまるで、魔法使いの体に刻まれている魔力の源泉である、星泉の位置が見えているかのように」
「それは」
「通常、星泉の位置には個人差がある、そのうちの最も輝く星泉を閉ざす事で魔力の生成を阻止する事ができる。本来は特殊な訓練を行った者のみが扱えるような事を、しかも、何の段階も踏まずにたった一瞬でして見せた」
「た、たまたまですよ」
なんだか、あまりに詳しい彼女の口調に不安になりながら否定してみると、彼女は首を横に振った。
「いいえ、あなたの決闘を私はいくつも見てきた、そのどれもが初等魔法による一撃での決着。一般的に見れば圧倒的な力量差に見えるかもしれない。
けれど、私の目はごまかせませない、あなたは間違いなくすべての決闘において確実に星泉を突いて勝利している」
「ま、まさか、それが本当ならあなたも星泉の位置が見えなきゃ、その言葉は嘘になると思いますよ」
「勿論、見える」
「・・・・・・え?」
「私の家系は代々星読み家系です、星泉を読むことは可能です」
「え、じゃあ、もしかしてあの有名な星読み一族アンバー家の」
「私の名前はサラ・アンバー、サラと呼んで」
確かに実力はすごい人だとは思ってたけど、まさか名家の人間だとは思ってもみなかった。
まぁ、魔法界自体が血統主義な一面があると聞いてたから、名家の出身であればその実力も当然なのかもしれない。
「あなたの様な名家出身なら、こんな所に入る必要はないと思うんですが」
「家系は関係ないわ。そんな事よりもあなたの事をまだまだ語りたいの」
「い、いや俺の事なんて」
「知っているとは思うけど、魔法使いにとっての最大の痛手は魔法が使えなくなる事、公に使われる戦術として広く知られているのは魔力吸収や分散、詠唱阻害などがあるけど、一番効果的なのは星泉への攻撃。私はあなたの徹底的なスタイルに惚れたの」
「な、なるほどね」
「えぇ、つまり、あなたの力は相手の星泉を確実に突く能力、こんな才能、魔法界の歴史上例を見ない、唯一無二の力であることは間違いない、つまり、あなたはこの世界を変え得る存在だという事」
とてつもなく的確な分析に、俺の本質を見抜かれそうになっている気がしていた。そして、もしもこのまま彼女に分析され続ければ俺という儚い存在が今この瞬間から崩れ落ちてしまいかねない。
そう思うと、不安になってキャシィに助け舟を出してもらいたくなった。そんなことを思いながら彼女に視線を送ってみると、彼女はサラの事をじっと見つめていたかと思うと「フンッ」と鼻を鳴らした。
「あらあら、負け犬にふさわしいお粗末な分析ですこと、あくびが出てしまいますねぇ」
キャシィの言葉にサラは敏感に反応して見せると、わずかに室温が下がったような気がした。
「お粗末?個人的には彼の能力についてかなり的確に言ったはず」
「ぜーんぜん、まるで分析でいていないわ負け犬」
「なに、じゃあ、彼にはまだ秘めた力があるというの?」
「当然、第一にマギステルには攻撃そのものが当たることがありません」
「え?」
「あらあら、熱心にマギステルの研究をしていると言っていた割には、決闘の度にマギステルへの攻撃が命中していないことに気づいていなかったのかしらぁ?」
「そ、そういえば」
「星泉、とやらに夢中になり過ぎていた様ね、どおりでさっきの決闘の際も防御ばかりに気を取られていたのかしら」
「そ、それは・・・・・・」
「負け犬とはいえ、アンバー家の者があの体たらく、まぁ、マギステルを前にしたら仕方のない事でしょうけどね」
「くっ」
キャシィの言葉に悔しがる様子を見せるサラ、どことなく雰囲気的には良い方向に向かっている様な気がしているが、キャシィの口にした俺の力の一部に関しては決して許容できるものではない。
「キャシィ、そこまでにしてくれ」
「そうですね、ですがマギステル、これはちょうどいいギルドメンバーが現れたんじゃないですか?」
思えばそんな話もしていたな。
たしかに、彼女がギルドメンバーになってくれるっていう話になると、それはそれでかなり良い話にも思えてきた。
正直な話、余計な人材を引き入れて下手な情報漏洩があったら面倒だとは思っていたが、一人くらいなら別に良いのかもしれない。
そんなことをおもいながらサラを見つめていると、彼女は真剣な目で俺を見つめてきていた。
美しい青い瞳で見つめられると、思わずクラクラとしてしまいそうになる程魅了されそうになっている俺は、実力もある彼女をこのギルドへ入会させることを安易に決めようとしていた。
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