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この邂逅は、瞬く星々が証する
漆黒の地に銀粉を散らしたような星々の力強い煌めきは、瑠璃紺に塗られた空の中にあってまるで手が届くと錯覚するほどだ。
星辰に見下ろされた地上にもまた、宝石の如き光の粒が夜闇を照らし出すところがあった。貴族の館は眠らない。燭台の飾り水晶に乱反射した蝋燭の光は、開け放たれた窓から漏れて街路を玉虫色に彩る。
室内では誰もが談笑し、ざわめきは漣のように間に満ちる。しかしその中で控えめに動く影があった。するすると人波を縫い、ひと知れず灯火の光及ばぬ露台へ抜け出る。
「まったく困ったものだ。美しい方はダンスの誘いが絶えなくて」
「ご冗談を。そちらこそ次から次へと令嬢のお相手をしていらしたのに」
娘はわざとらしく肩を竦めて男性に背を向けた。すると悪戯な初夏の夜風が娘の肩掛けをはためかせ、淡い紅の絽が空に靡く。
手を伸ばした娘よりも早く、男はその帯を優しく絡め取り、そのまま娘の細い体に腕を回し、自分の方へ引き寄せた。
「やっと捕らえたのです。この手に、貴女を」
抱き止められた驚きも見せず、娘は挑発めいた笑みを浮かべる。
「それは、私の望みを叶えてくださると?」
吐息混じりに呟いて、男の頬にそっと触れる。
人の作った明かりから隠れ、星々だけが見守る中、二人は見つめ合い、互いの唇を重ねた。
だがその直後、何者かに襲われ、翌朝娘の姿は忽然と消えていたと言う。
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