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☆
「彼女は、まだ見つからないのか……っ」
部下の報告に、男は羽根ペンの先を書見台に押し付けた。
「恐れながら。しかし方々手を尽くして探索しましたが、もはやこの地には」
淡々と続く説明に男の表情は曇り、眼は苦痛に歪む。紙の上にインクが滲み、男の署名を無様に汚していく——心に広がる闇のように。
「この地では、会えないというのか」
あの口づけが男の頭から一時も離れない。想いは募るばかりで日夜男を苦しめる。
彼女がいない街の夜など、月明かりすら皮肉に笑う。
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