藁玉人夫

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 喫茶店で義母と娘婿はコーヒーを飲んでいた。ガラス戸の向こうに、ジェットコースターのレールが連なっていた。 「あのジェットコースター、人が死んでるのよね」義母はいった。 「逆ですよ、お義母さん」娘婿はいった。「あのジェットコースターに乗った女性は、子宝を授かるといわれているんです」 「休息日は、母娘で映画へいったりするものよ」義母はいった。「あの子、明日は休息日よね」 「ええ」娘婿はいった。「僕は仕事ですが」  翌日、娘婿は防護服に身を包み、スコップを持ってシェルターの外へ出た。彼は荒野へ藁玉を敷き詰めていった。  娘婿は藁玉人夫だった。娘も藁玉人夫だった。義母も藁玉人夫だった。シェルターの住人のほとんどが藁玉人夫だった。  巨大なビニールハウスのような宇宙シェルターの中で、人々は共同生活を営んでいた。シェルターの外は、どこまでも荒野が広がっていた。
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