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里奈ちゃんが消えた日。
私の心も消えた。
里奈ちゃんは控えめで、いつもニコニコしていた。
サラサラの髪が抜群にきれいな女の子。
特段美人という訳ではなかったけれど、彼女が話すことはとても面白く、席が近かった私達は直ぐに仲良くなった。
「詠美ちゃん。宿題やってきた? 今日私、数学当たるの。ヤバいんだょ〜」
焦る里奈。
なら、やって来ればいいのにと面白く思いながら里奈に自分のノートを差し出す。
「ありがとう〜、詠美ちゃーん」
喜んでノートを写している里奈のきれいな髪を撫でる。
「里奈ちゃんの髪はきれーだね」
トイプのようにくるくるした私の髪とは全然違う。
「そうかな? 昨日お兄ちゃんがシャンプー使い切っちゃったから、お父さんのシェービングクリームで洗ったの」
え? と思わず手を引っ込めた。
笑いがこみ上げる。
「シェービングクリームって髪、洗えるの?」
「分かんない。けど、石鹸的な物じゃない?」
「クリームでしょ!!!」
言い返しながら、いつも通りあっけらかんと話す里奈ちゃんに笑いが止まらなくなった。
里奈ちゃん自身は真面目に話しているので、私が何に笑っているのか分かっていないようだった。
笑っている私に、軽い調子で聞いてきた。
「詠美ちゃんはどこの高校、受験したいの?」
「うーん、私は近所の公立高校かな」
「いいなあ。私はバカだから、行くとこないなぁ……」
唇を尖らせて呟く里奈ちゃんの頬をつついて、注意した。
「バカだからで片付けない! 勉強、ちゃんとしないと! 私もだけど!」
「でも昨日覚えた公式、もう忘れちゃった」
「おんなじ、おんなじ」
そう言って私達は、また笑い合う。
里奈ちゃんがいれば、私はずっと笑っていられた。
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