きらきらと

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 翌日、里奈ちゃんはお休みだった。  私は授業ノートを里奈ちゃんの家に届けた。  出てきたのは、里奈ちゃんのお母さん。 「里奈ちゃんの具合、どうですか?」  「詠美ちゃん、ありがとう。里奈、風邪ひいちゃったみたいで……」  それからずっと、里奈ちゃんは休み続けた。  私は里奈ちゃんがいない机を、眺めた。  私のせいかな。  授業ノートと共に、テスト判定後に強く言ってしまったことを謝る手紙を書き、里奈ちゃんのお母さんにもその事を話して手渡した。  里奈ちゃんのお母さんは私に「気にしないで」と言ってくれたけれど、その表情はとても悲しげに見えた。  一週間、一ヶ月、半年。  里奈ちゃんが居ない教室は、里奈ちゃんが居ないことに慣れた。  クラスメートなのに。  誰も里奈ちゃんが居ないことを気にも留めなくなった。  私も気にはなっていたけれど、自分のことに精一杯で、毎日持っていった授業ノートを里奈ちゃんの家に届けることも、一週間に一度となっていた。  受験が終わり、何とか志望高校への進学が決まると、心底ホッとした。  後は卒業式を待つばかりとなったある日。  私は近所の書店に気分転換に出かけた。  書店には私と同じ事を考えたクラスメートの理恵子ちゃんがいた。  二人で話しながら、漫画や雑誌を見ていると、不意に声をかけられた。 「詠美ちゃん!」  振り向くと、ニコニコした里奈ちゃんが立っていた。 「里奈ちゃん!!」  私と理恵子ちゃんは、里奈ちゃんに駆け寄った。  里奈ちゃんは以前と比べて、ガリガリだった。  足も手も、小枝のように細い。  その姿にも驚いたけれど、それより里奈ちゃんに会えた事が嬉しくて、私は謝りながら、里奈ちゃんを抱きしめた。  里奈ちゃんはニコニコして、「いいよぉ、大丈夫だから……」と言う。  変わらない里奈ちゃんと会えたことが嬉しかった。  私は、里奈ちゃんに尋ねた。 「今、何やってるの?」  それは、誰と来たの? この後、一緒に話さない? と言う意味の質問だった。  だが、言った途端に理恵子ちゃんが慌てた。 「詠美ちゃん、それは……」  理恵子ちゃんを見て、私は言葉をかけ間違えたことに気づいた。  里奈ちゃんは、長く休んでいる。  受験は、多分していない。 「里奈ちゃんとこの後も話したいな、って思って、時間があるか確認したの」  慌てて里奈ちゃんに、自分の言葉の意図を伝える。  里奈ちゃんはニコニコしたまま、答えた。 「今、お母さんと来てるから。この後は家に帰るんだ。詠美ちゃん、理恵子ちゃん、会えて嬉しかったよ」 「里奈ちゃん……。また、会おうね!また、話そうね」  私の言葉には答えずに、里奈ちゃんは笑顔手を振って、待っていたお母さんの車に乗込んだ。  里奈ちゃんの笑顔が胸に焼き付く。  また、会えるよね。  また、話そうね。  遠ざかる里奈ちゃんへの思いを抱えて、私たちも家路についた。
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