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顕王星(けんおうせい)には三十年間、雪が降ってはいない。だからか、ここの子どもたちは雪を知らない。というよりも、雪がどんな感触で、どんな匂いがするのか知らない。
彼らは雪を写真や映像でしか見たことがないのである。
市政課に在籍しているジェイには、3歳になる息子がいる。その息子に雪を見せてやりたい。触らせてやりたい気持ちがあった。
だが、雪を降らせるのも降らせないのも、天空の神の匙加減で決まってしまう。人の力ではどうしてもできない。
ジェイはそこで、顕王星の市政三十年を記念して、雪を降らせるプロジェクトを立ち上げた。
と言っても、隣の妃王星(きおうせい)から雪を輸送して上空からその雪を降らせるものだった。
輸送にかかる費用を考えると、税金だけでは足りなかった。そこで、ジェイは雪の輸送のためにクラウドファンディングを実施することになった。
当初、クラウドファンディングをしたとしても、資金は集まりっこないという意見が大勢を占めた。なぜなら、借りものの雪など、見たい市民がいるわけがない。そもそも一瞬で終わる降雪に市民からの善意の資金を使うなんて、金をドブに捨てるようなものだという、乱暴な意見もあった。だが、ジェイは勝算があったので、譲らなかった。
ジェイは早速、仲間と協議してクラウドファンディングを市のホームページで呼び掛けた。
市政課の心配をよそに、資金は順調に集まりだした。幸先のいいスタートに、ジェイは上機嫌だった。
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