ヒロイン視点

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 私は公式に準じて、制服の襟ぐりや袖口からのぞく肌に古傷を描いていく。特に右半身に多い。幼い頃に遭った事故による痕だそうだ。  事故当時、小学生だったデクスターは、祖父母に連れられて百貨店を訪れていた。祖父母の物心がついた頃からの老舗らしい。  ところが、老朽化で取り壊されることが決まった。閉店セールの真っ最中だったわけだ。  祖父母が思い出話に興ずるためと、孫への贈り物を買うために足を運んだのに、不運にも建物が倒壊した。祖父母が身を(てい)してデクスターを守ったことで、彼は生きている。 「もっと練習しなきゃ」  鉛筆を机に置く。  完成した線画と立ち絵を見比べると、足元へも寄り付けないと実感する。技術力だけではない。立ち絵は、制服の質感やデクスターの体温、匂いまで伝わるほど迫力がある。  対する線画は張りぼてだ。次元が異なっていても、自分と同じように生きている人間だと思えない。  表現力というのだろうか。  それとも別の何かだろうか。  気を取り直して色鉛筆の青を手に取った。青はイメージカラーとして設定されている。  青と一口に言っても、実際に使われている色はさまざまだ。たとえば髪の毛は明るい青色で、目の色は髪色よりもずっと暗い。伏し目がちで、色味も相まって常に憂いを帯びたように見える理由が、過去に起因すると知った時は胸にこたえた。  今では、都市伝説にもすがるくらいキャラクターカードを集めたい推し――私の場合は恋慕を抱く対象――である。  今回のキャラクターカードはSSRだ。希少度が最も高く、ガチャの排出率が最も低い。入手困難なだけあって願掛けにも気合いが入るというものだ。  しばらくして色塗りを終えた私は、片付けもそこそこにスマートフォンを手に取った。  ロック画面は正午過ぎを示していた。  液晶画面にパスワードを打ち込む。瞬時に画面が切り替わり、SNSを通じて公式から配布された壁紙が目に飛び込んできた。何度見ても頬が緩む。  (はた)から見ると薄気味悪い表情をしているに違いない。幸いにも私室だ。自重せずにゲームアプリを立ち上げた。
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