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暗転した後、真っ白いキャンバスが画面中央に映し出された。前口上と言える。キャンバスに触れると、魔法の筆が色を乗せて絵を描いていく演出なのだ。
描けば出る。私は心の中で復唱して、震える指先でキャンバスに触れた。
十連目。引き当てられたら奇跡だ。
二十連目。まだほんの序の口である。
三十連目。結果は芳しくない。
四十、五十と回を重ねるごとに喉が渇く。
本当に天井まで回すことになるのだろうか。不安と焦燥をかき消すために、デクスターとのこれまでを思い返す。
エマは授業で絵を描くことになった。魔法の筆に自分の魔力を込めることができれば、完成した絵がひとりでに話し出したり、額縁から出たりするのだ。
とりわけ狼の絵画が評価されている。数十年前にオリエンスを卒業した生徒の作品らしい。
エマは高評価を得るために筆を揮う。
授業の終了時刻が迫り、仕上げの工程に入ったところで突如、美術室に悲鳴が響いた。デクスターを含む五人の魔力が暴走したのだ。運悪く流れ弾に当たったエマは、狼の絵の中へ吸い込まれてしまう。
孤独だった狼はエマを手放さないと宣言した。だが絵画の一存で生徒の処遇が決まることはあり得ない。教員が交渉の席を用意したり、半ば脅しのような言葉をかけたりした。
実力行使に出ることもできた。ただし、絵画の世界では主の意思が絶対だ。つまり、狼に逆らって手荒なまねをすると、エマの肉体や精神に悪影響をおよぼす可能性が高い。
頭を抱える教員に狼が告げる。
「発端となった生徒にそれぞれ課題を与えよう。大人の手を借りてはならぬ。一人残らず達成した場合、こやつを返す」
課題はどれもこれも難易度が高かった。無理難題を吹っ掛けられたことで尻込みする五人だが、エマの友達や教員からの圧もあり、課題を引き受けることにした。
――メインストーリーの序章である。
その後、プレイヤーは五人のうちの一人を選ぶ。私はそこでデクスターを選んだ。デクスターに課された難題を通して、デクスターとエマは親密になっていき、友情は恋愛へと進展する。
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