18人が本棚に入れています
本棚に追加
/9ページ
823
「君に会いたい」
「じゃあピクニックにいきましょうか。お弁当作るわね」
そんな会話をした翌日、風香は空と同じくらい真っ青なビニールシートを地面に広げた。春の風が草の薫りを運んでくる。
中央に置いたバスケットの中にはから揚げやおにぎり、ポテトサラダなどがぎっしりと詰められていた。色合いも美しく、食欲をそそる。
「大学の近くにこんな公園あったんだ」
「人は空き地を見つけたら公園か駐車場にしたがるものよ」
「偏見がすごい。けどほんとよく見つけたね」
「講義の空き時間に探検してたら見つけたの。穴場よね」
彼女の言う通り、こぢんまりとした公園には誰もいなかった。
僕たちの通う大学には構内に大きな広場がいくつかある。似たような場所をわざわざ構外に求めていないのだろう。
風香はから揚げに爪楊枝を刺した。楊枝の持ち手には三色の小さな国旗がついている。
「かわいいな、その旗」
「こういうのが幸せなのよね」
「爪楊枝が?」
「思い出はカラフルなほうがいいでしょ」
風香は国旗を刺したから揚げを静かに持ち上げた。そのまま僕の口元へと差し出す。
僕は一瞬迷ったが「穴場でよかったわね」と彼女が言うので、口を大きく開けた。
「自信作なんだけど」
「代表作でもいいと思うよ」
「おいしい?」
「最高」
から揚げを頬張りながら答えると、風香は嬉しそうに微笑んだ。
穴場でよかった、と思う。今の僕の顔を誰かに見られたくない。
「お弁当ごちそうさま。全部おいしかった」
「彼氏に会いたいなんて言われたらはりきっちゃうわよ」
「言わせてる自覚は?」
「自分の言葉には責任持ってよね」
素知らぬふりをする風香を見て苦笑する。
だけどまあ僕だって嫌々言ってるわけじゃない。
「今度は探検にも誘ってくれよ」
「そうね。考えておくわ」
最初のコメントを投稿しよう!