12人が本棚に入れています
本棚に追加
「先生のお力をお借りしたいんです」
薄暗い部屋の中で男が頭を下げた。
「死んだ親父に会わせてください」
男の前で袈裟を着たじいさんが腕を組む。
「良かろう。日本一の霊媒師であるワシに任せなさい」
じいさんは右手の人差し指と中指を立てた。
「亡くなった親父さんの霊をワシに憑依させる」
じいさんがブツブツ念仏を唱え始めると、
「ちょっと待ってください」
男が手を上げた。
「何かね?」
「憑依って何分ぐらいもつんですか?」
じいさんは視線を斜めに上げてから下ろした。
「ケースバイケースじゃが……明確な時間は決まっておらん。それはおろされた霊次第じゃのう」
「と言いますと?」
「霊の気が済むまでということじゃよ。例えば家族に遺言を残せなくて悔やんでいた霊が憑依したとする。その霊が家族に遺言を伝え、未練がなくなった時、晴れて成仏して憑依が解ける……といった具合じゃな」
男は真剣に何度も頷く。
「なるほど未練がなくなるまでか」
「何か問題でも?」
「ないです! 俺は親父とさいかいしたい。それだけで十分なんです。すみません続けてください」
じいさんは再び儀式に取りかかる。じいさんの独り言が途切れた。かと思うと、じいさんは立ったまま頭を垂れる。
「先生?」
男が呼びかける。じいさんはゆっくりと面を上げた。
「ユキオか……?」
男は目を見開いた。
「親父? 本当に親父なの?」
「何言ってるんだ。そうに決まってるだろ。にしてもここはどこだ?」
視線をさまよわせるじいさんを見て男は確信した。
「やった! 憑依が上手くいったんだね……って、浮かれてる場合じゃなかった」
男は憑依されたじいさんに向かってことの成り行きを説明した。じいさんの表情が穏やかなものになる。
「でかしたぞユキオ。さすがは俺の子だ」
「大したことないよ。親父、それよりも」
最初のコメントを投稿しよう!