さいかい

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「先生のお力をお借りしたいんです」  薄暗い部屋の中で男が頭を下げた。 「死んだ親父に会わせてください」  男の前で袈裟(けさ)を着たじいさんが腕を組む。 「良かろう。日本一の霊媒師であるワシに任せなさい」  じいさんは右手の人差し指と中指を立てた。 「亡くなった親父さんの霊をワシに憑依させる」  じいさんがブツブツ念仏を唱え始めると、 「ちょっと待ってください」  男が手を上げた。 「何かね?」 「憑依って何分ぐらいもつんですか?」  じいさんは視線を斜めに上げてから下ろした。 「ケースバイケースじゃが……明確な時間は決まっておらん。それはおろされた霊次第じゃのう」 「と言いますと?」 「霊の気が済むまでということじゃよ。例えば家族に遺言を残せなくて悔やんでいた霊が憑依したとする。その霊が家族に遺言を伝え、未練がなくなった時、晴れて成仏して憑依が解ける……といった具合じゃな」  男は真剣に何度も頷く。 「なるほど未練がなくなるまでか」 「何か問題でも?」 「ないです! 俺は親父とさいかいしたい。それだけで十分なんです。すみません続けてください」  じいさんは再び儀式に取りかかる。じいさんの独り言が途切れた。かと思うと、じいさんは立ったまま(こうべ)を垂れる。 「先生?」  男が呼びかける。じいさんはゆっくりと面を上げた。 「ユキオか……?」  男は目を見開いた。 「親父? 本当に親父なの?」 「何言ってるんだ。そうに決まってるだろ。にしてもここはどこだ?」  視線をさまよわせるじいさんを見て男は確信した。 「やった! 憑依が上手くいったんだね……って、浮かれてる場合じゃなかった」  男は憑依されたじいさんに向かってことの成り行きを説明した。じいさんの表情が穏やかなものになる。 「でかしたぞユキオ。さすがは俺の子だ」 「大したことないよ。親父、それよりも」    
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