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喋りながらも口調だけは軽口だが、海賊の男は目つきが変わった。その様子を見て他の海賊たちにも緊張が走る。船長であり、皆の頭目であるこの男がこの表情をするときは本気になった時だ。
「毎日酒やチーズをくらってるお貴族様ってわけじゃなさそうだ。なんだテメエは」
「失礼だなぁ、二百年続く由緒ある家なのに」
返り血で真っ赤になっているというのに眉をピクリとも動かさない。沸き起こる悲鳴の中に何人か自分の部下の悲鳴も聞こえて、海賊たちは周囲を警戒する。
「なるほど。無能な警備以上にやばいのが中に入ってたってわけか」
凄まじい速度で次々と海賊に襲いかかる何か。人がごった返しているので姿を見ることができないが。
海賊の一人がテーブルを勢い良く蹴飛ばした。しかし飛んでいたテーブルは真っ二つになって左右に分かれて飛んでいく。
「よく止めた、あんがとよ」
「ブチ当たるのを期待したんですけど、やっぱりだめでしたか」
まさか真っ二つにするとは、と呟く。そこにいたのは一人の少年だ。貴族らしくやたらと装飾品がついた剣を持っているが。これで海賊を殺して回っていたらしい、彼も返り血で真っ赤だ。
「ウチの奴ら何人死んだ? おーい、死んだやつ返事しろー」
「あはは、面白いね君。大道芸人として雇いたいくらいだ」
その言葉に他の海賊たちはピクリと殺気だったが、船長である男は気にした様子もない。
「まだ四人」
剣についた血を払いながら少年が淡々と言う。その言葉に船長は気を悪くした様子もない。
「このへんの金持ち連中とつながってウチの情報を漏らしてたアホどもの人数と重なるな。口封じしてくれてありがとよ、手間が省けた」
「やっぱり偽物の情報か。ま、金欲しさに寄ってくる馬鹿なんてそんなもんだろうけど」
貴族の青年は海賊退治をお願いされたんだよね、とあっさりとばらして見せる。宝の情報を流せば必ずここにやってくる、それを一網打尽にする計画だったようだ。だがそんな事は海賊たちにはとっくにバレていた。
「それでもここにやってきたって事は、お宝は本物だったってわけだ。どうして本物なんて出そうと思っちゃうのかな、馬鹿みたい」
あはは、と笑う貴族と思われる男。先ほど剣が刺さったこのパーティーの主催者はとっくに死んでいる。
青年は見た目は金持ちでいかにも貴族なのだが、血まみれになっている少年以上にとんでもない化け物のような印象だ。
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