12人が本棚に入れています
本棚に追加
戦いが始まれば船がやられてしまうので、ダイニーは今船に残っている。必ず相手は船を沈めに来るはずだからだ。
「俺たちが討伐できてないのは伝わっているだろう。騒ぎを聞きつけて駆けつけてくるだろうな」
だいぶ作戦が甘かった自分たちをハメた連中。そいつらを野放しにするなど、何の報復もしないなど海賊である自分たちにはありえない。
「貴族の坊ちゃんたちに先に殺されないように気をつけろよ」
落とし前は必ずつける、それが海賊であり悪党の流儀だ。そして同じ……同じと言って良いかどうかはわからないが、それよりもさらに深い闇に存在する彼らもそれは同じだろう。
裏社会や貴族の世界、そして国の事情が絡めば必ず見せしめは必要だ。絶対に責任を取るべき人物が存在しなければならない。
「取り合いは宝だけにしたかったな。なんでむさ苦しいおっさんたちを取り合わなきゃいけないんだ」
ハーヴェストの言葉にその場にどっと笑いが溢れた。
「ナイト、うまくいっているの?」
女王の言葉にモルドーは背筋を正す。誰にも見られることのない屋敷。女王の私物の屋敷だ。メイドが一人しかいない、小ぢんまりとした別荘。
「滞りなく」
「海賊までまきこめなんて無茶を言ってごめんなさいね。でもそろそろ国が変わる時なのよ」
「私も同じ気持ちです。以前はこの国を支えるために汚れ役は必要だったのかもしれませんが。他の国との争いが激化していくであろう今の世には、もはや不要です」
功績をあげている中、女王から示されたのは命令ではなくゲームの誘いだった。成功すればこの国の発展になるし、失敗すれば破滅となる。
あまりにも力を持ちすぎた三大貴族の均衡をそろそろ崩すべき時が来たのだと。そういう話をされてモルドーは考える間もなく返事をした。自分にお任せくださいと。
「忘れないでちょうだいね。私はあなたを庇う立場じゃない。あなたが失敗してもそれはそれで構わないのだから」
「承知しております」
「そうそう、あの子から報告が来たわ。今回の騒動、『チェシャ』に任せるそうよ」
不思議の国のアリスの登場のキャラクター名にちなんだ者がファミリーの一員だ。ずっと空席だったチェシャ猫のポジションが埋まったと知ったのはつい最近。しかもどんな者なのか、どれだけ調べても姿を確認できなかった。
最初のコメントを投稿しよう!