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女王も一度も会っていないとのことだ、普通は紹介をするというのに。これこそが女王が危惧した内容だ。ヴェンゾン家が権力を持ちすぎたのだ。
もはや一つの貴族という枠には収まらない。王家を脅かす存在となり得る。
「害獣も含めてまとめてきれいにして差し上げます」
「楽しみにしているわ。私を退屈させないでね、ナイト」
そう言うと、女王はチェス盤の上のナイトをルークの前に置いた。
「リター」
「はい」
名前を呼ばれたメイドは要件を言われずとも行動できる。お茶のおかわりを淹れてから、馬車の手配をするために一礼してから部屋を出た。
走っていたドラグたちだったがバァン、という凄まじい音と共に足を止めた。見ればドラグのほんの少し横の地面がえぐれている。
「狙撃!?」
周囲を見渡すハーヴェストだったが、ドラグはそっちじゃねえよと上を見る。
「破片がきれいに扇状に飛んでやがる。上からだ」
走っている自分たちに狙いを定めて地面をえぐるなど高いところからの狙撃に決まっている。それに同じ場所に立っていて地面を狙ったのなら、破片は一方向に、そして遠くまで飛び散るはずだ。見上げたとき何かがひらりと屋根から移動するのが見えた。
「わざと外されたな。ついて来いってか。口で言えよ、まったく」
殺すこともできたのにわざわざ外したのだ、間違いなくヴェンゾンの者だろう。
「この間のあいつか?」
面白くなさそうにハーヴェストが聞くが、ドラグが首を振る。
「この距離撃てるんだったらマスケットだ。あのガキじゃ無理だろ、反動がでかいしそもそも銃身を手で支えられねえさ」
「チビだったもんな」
「お前と同じ位だろ」
「あいつの方がチビだったよ!」
ムキになって言い返す姿に軽く笑いながらも、身をひる返した者を追ってそちらの方向に走り出す。
わざと追えるようにどうやら速度を調整しているらしく、ギリギリ姿を確認できるかできないかの距離を保っている。夕日がちょうど逆光となり姿はうまく確認できないが、それなりに長身の男であろう事はわかる。おそらくヴェンゾンの中でも凄腕、といったところか。
「しゃあねえな。パーティ会場まで行くとするかね」
「俺たちオシャレしてねえけど」
「手に唾つけて髪とかしとけ」
ゲラゲラ笑いながら、海賊は走る。果たして貴族の服を着たあいつらは、獣か悪魔か。
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