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「お貴族サマの事情なんて知ったことか、クッソどうでもいい」
「……それも俺のセリフだ、海賊!」
最後は初めて見る、シャイルの叫び。どうやら本当に心底苛立ったらしい。渾身の一撃がハーヴェストを襲う。真正面からそれを受けてハーヴェストは舌打ちをした。
「馬鹿力じゃん! 手加減してたのかよホント腹立つ!」
手がしびれそうなほどの力。それがハーヴェストの頭に血が上る。自分と戦い方がかぶるのが許せない。しかしシャイルの次の一撃は力技ではない。
目で追うのがやっとの超高速連撃だ。ナイフという小型の武器を最大限に生かした圧倒的な追撃。
「長剣相手にナイフで力技勝負するアホがこの世にいるかよ、馬鹿じゃねえのか!?」
「なんだとテメェ!? たった今力技かました馬鹿のくせに!」
二人の剣撃は続く。会話だけ聞けば、文字通り子供の喧嘩だというのに。行われているのは、一瞬の隙が命を落とす激しい戦いだ。
モルドーが走り出すと同時に部下たちも一気に動いている。ほとんどは海賊に、残り数人はマルセル達のところに。しかし、いつの間にかマルセルとツイードはいなくなっていた。
そうなると海賊との戦いになる。それは切り合っているハーヴェストも例外ではない。それに二人の近くには自分たちの隊長であるモルドーもいる。
雄叫びとともに二人の戦いの間に戦士たちが乱入してきた。勝負を邪魔されたことに二人とも舌打ちする。
「邪魔だ」
「くそ!」
モルドーにトドメを刺したいところだが既に他の戦士が守るように前に立ってしまっている。チラリと見れば既にシャイルもいなくなっていた。
引き際だ、後ろでは仲間たちが既に戦っている。自分もそこに駆けつけなくては。
勝負がつかなかったのは気持ち悪いが、今はやるべきことの優先順位はそれではない。斬りかかってきた戦士の腕を切り落として、ギャーギャーと喚いているうちにドラグたちのところに走り出した。
「興ざめだわ。余計なことをしてくれたわね」
せっかく面白くなってきたというのに、どうして戦士というのは上流階級の楽しみ方を学べないのか。
「このままごちゃごちゃと乱闘になっても、誰が生き残っても面白くないわ。そろそろ帰ろうかしら」
そうつぶやいたが、連れてきた護衛の動く気配がない。いつもは女王の言葉にすぐに立ち上がるために手を差し出すというのに。おかしいと思い振り返ると、そこには自分の護衛ではなくマルセルが立っていた。
「勝手にここに来てしまうなんて、悪い子ね」
「今更でしょう。僕はそういう役割だ」
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