女王の見据える先

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女王の見据える先

「一度だけ許してあげるわ。早く戻って私の命令を遂行しなさい」 「なんでしたっけあなたのお願い」  普段ならこんな茶化すようなことを言わないというのに。女王はわずかにピクリと眉を動かす。 「ドラグ海賊団を生け捕りにすること。そう命令したはずなんだけど、あなたらしくもなく時間がかかってるじゃないの」 「生け捕りってやったことないから難しいんですよね。なんでわざわざ生け捕りにするんです、殺した方が手っ取り早いのに」 「同感だなあ!」  二人の会話に割って入ったのはドラグだ。いつの間にかすぐ近くまで来ていた。女王の近くに海賊をいかせてしまうなど、この場にいる戦士たち全員の大きな失態だ。 「なんでこんなまだるっこしいことをやりやがる。筋肉バカを使ってそこの坊ちゃんを陥れようとしているにしても、なんかやり口がムズムズすると思ってたが。俺たちを殺すんじゃなく生け捕りが本来の目的か」  斬りかかって来た戦士を一人斬りつけて思い切り蹴り飛ばした。そしてその戦士が使っていた剣を壁に突き刺すと、それをバネにするかのように思いっきり踏みつけて大きくジャンプする。女王とマルセルがいる二階の手すりに着地した。ワーオ、とマルセルは手を叩いた。  その様子に慌てたのは戦士たちだ。慌てて駆けつけようとすれば、海賊たちが邪魔をして近づくことができない。  殺すな。不思議な指示だったが、ドラグは必ず後始末を考えて指示をしている。それを忠実に守っていたが徐々に戦士たちの動きが鈍くなってきた。女王の言ったこと、初耳の様だ。討伐するのが命令だと思っていたのに、貴族への命令は生け捕り。正反対の指示に困惑しているらしい。なるほど聞かせるためか、とようやくわかった。 「なんだなんだ、欲しいお宝でも俺たちが持ってるってか?」  その瞬間、マルセルがドラグに小型の銃を向けていた。マスケットのような大きな銃ではない、手のひらと同じくらい小さな銃だ。今まで見てきたどんな銃よりも一番小さい。袖の中に隠していたのだろう。 「初めて見るなそれ」 「服に隠せる銃を作ってよって頼んだら、職人が泣きながら作ってくれたんだ。いいでしょ」 「くれ」 「あの子と交換ならいいよ」 「じゃあいらねえ」 「あはは、すごい価値だね彼。これ一個で屋敷一つ買えるんだけど」 「仲間の命は金に換算するもんじゃねえよ。命に価値なんざあるわけねえだろ。価値っていうくくりに入ってないんだからな」 「言い得て妙だ。好きだな、そういう考え。反吐が出る」 「お褒め頂き光栄だ、分かり合えなくて安心したぜおぼっちゃま」  ドラグが剣を振るうよりも、マルセルが引き金を引く方が早い。見たところあまりにも小さいので飛距離はほとんどないだろう。殺傷能力は高くなさそうだが、この状況では一発でも撃てれば十分だ。人は頭と心臓に弾が当たれば死ぬのだから。
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